地方自治体の「理念条例」っていったい何?――北海道美唄市の禁煙条例案

美唄市

美唄市ホームページより。

 北海道美唄市で、官公庁や学校・医療機関などの公共施設では「全面禁煙」、不特定多数が利用する施設では「原則禁煙」または「分煙」にするといった内容の“禁煙条例案”が議会に提出される、という見通しが一部メディアで報じられている。市の健康増進課によれば、3月2日から開会される市議会での採決を目指しているとのこと。  受動喫煙防止を目的とした条例はすでに兵庫県や神奈川県で施行されているが、同様の条例案が市町村レベルで取り上げられるのは初のこととして注目されている。  同時に、美唄市では「人が健康、まちも健康~住んで良かったまち美唄」というキャッチコピーを掲げて13年3月に『びばいヘルシーライフ21』という行動指針を策定しているが、その一環で昨年12月に受動喫煙防止ガイドラインを制定したばかりで、それからわずか2か月での条例化ということで、疑問の声も上がっている。  東京都で行われている受動喫煙防止対策検討会において、法学者である座長は「受動喫煙対策は地域的な特性を持つとは考えにくいので、本来、中央政府が行うことが望ましい。地方自治体が罰則付きの条例を制定することは困難が多く、罰則規定のない条例の効果はガイドラインと変わらない」との私見を示していたが、美唄市の場合も、あくまで努力義務であって、罰則規定を設けることもなく「むしろガイドラインよりも緩やかな内容になると思います」(市健康増進課)というから、「じゃ、何でわざわざ条例なんて作るの?」という疑問もわいてくる。  もっとも、あってもなくてもいいような“理念条例”は全国に数多く存在するのも確かではある。例えば、宮崎県日南市には「日南市の地元本格焼酎による乾杯を推進する条例」なんてものがあるし、新潟県南魚沼市の「コシヒカリ条例」では、市民に朝食には地元産コシヒカリを食べるように訴えている。もちろん罰則はない(そんなことで罰されたらたまったものではないが)。  このように、条例は地方自治体が比較的自由に作れるものなので、それ自体は否定されるものではない。ただ、美唄市はそうしたあってもなくても変わらない条例を作っている場合なんだろうか。  かつて炭鉱の街として栄えた美唄市だが、現在は人口約2万4000人、過疎化に頭を悩ます小さな街だ。また、同じ北海道には07年に財政破たんした夕張市があるが、財政的に見ても多くの小規模な地方自治体同様、青色吐息なのが現状だ。    市の予算約165億円の中で、独自の税収は約21.5億円しかなく、しかもそのうち市町村たばこ税が1.9億円を占めているのだから皮肉な話だ。”理念”が完全に実を結び、市民が条例の趣旨に沿って全員禁煙化すれば、まずこの1.9億円は失われることになる。  そして、筋論からいえば、その減収分を地方交付税で補填してくれというわけにもいかないだろう。地方交付税には、たばこ税の9200億円の25%がその財源に廻されていて、これは地方交付税予算17兆円の1.3%に相当する。美唄市の場合、地方交付税が歳入の4割以上を占めていて、また北海道からの支出金(予算の5%)にも、道府県たばこ税の一部が含まれていることは言うまでもない。つまり、現状の予算を維持しようと思えば、市民以外にはより喫煙をしてもらわなければならないという矛盾した話にもなってしまうわけだ。  市民の健康維持はもちろん大事なことだし、あるいは、市町村として全国に先駆けて禁煙条例を制定することで「おいしい空気のまち」(『びばいヘルシーライフ21』)として知名度を上げ、観光産業を新興しようという狙いもあるのかもしれない(喫煙による大気汚染というのも聞いたことないが)。  それでも、さして意味を持たない条例を作るより、同市の現状を考えれば地方行政がやるべき仕事はほかに幾らでもあるんじゃないかという気がしないでもない。正論すぎるが、まずは自主財源増の方策を真剣に考べきなのではないだろうか? <取材・文/杉山大樹>
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