東南アジアで高まる反中感情。タイの場合は?

北京五輪

2008年4月の北京五輪の聖火リレーではたくさんの中華系タイ人が沿道に集まった。

 最近の中国関係のニュースといえば尖閣諸島や近隣諸国との摩擦問題ばかりが目につく気がする。ここ、東南アジアでも中国と国境を接している国もあり、そういった問題が取り上げられる。

 例えば2014年5月に南シナ海のベトナム領海内で中国が石油掘削を行い、それを阻止しようとしたベトナム漁船と衝突があった。

 そもそもベトナムは歴史的に数千年前から中国を嫌う傾向にあり、その衝突事故で一時期はかなり険悪になったという。ハーバー・ビジネス・オンラインの2014年11月30日付けの記事「高まるベトナムの反中。ハノイの町の『ノー・チナ』を追う」(http://hbol.jp/14759)でも、首都ハノイでの一般市民の反中感情が取り上げられていたが、筆者も彼の地に訪れた時、まざまざとその現実を感じた。

 東南アジアは位置的に中国の影響を強く受けている。文化的にも、社会的にも中国を外して語ることはできない。過去には下記のような記事も出たが、いったいベトナム以外の東南アジアではどうなのだろうか?

※「アジア諸国で高まる反中感情」(http://jp.wsj.com/articles/SB10001424127887324050504578242272438539446

 ラオス人民民主共和国も中国と国境を接しているが、あまり摩擦問題は聞かない。むしろ首都ヴィエンチャンでは中国製の車が走り、中国のゼネコンが実現しそうもない大型ショッピングセンター建設予定を掲げて盛り上がっている。カンボジアでは、上記の記事によれば「地元住民の一部からは、中国企業の農業投資のために村民が立ち退きを強いられたとの批判が上がった」というが、地方のインフラは中国からの投資で整えられており、「一部の住民」以外からはそこまで反感を買っていない。カンボジアの闇の時代、ポルポト政権が親中だったこともあって、国民感情も中国に対して特にプラスでもマイナスでもないようだ。マレーシアやシンガポールは国境は接していないものの中国移民が多く、ほぼ公用語として中国語が使われているし、在住華僑や華人も中国の様式で生活をしている。

 日本人に人気のタイもまた特に反中感情というものは感じない。なぜなら、現代のタイのおいては経済的に力を持つ者たちや財閥はほとんどが中華系タイ人だからだ。タイでは「金持ち=中華系」と図式が成り立つ。昨今のタイ政情不安の原因であり、タイの大富豪とされるタクシン・チナワット元首相も中華系タイ人で、別に中国名も持っている。

⇒【画像】はコチラ http://hbol.jp/?attachment_id=25472

 ただ、中華系タイ人は東南アジアにおいて非常に特殊である。というのは、マレーシアなどと違って完全にタイ人になっているからだ。タイ国籍を取得し、タイの文化に溶け込み、タイの生活様式を取り入れている。身内同士では中国語を話す家庭もあるが、彼らの2世や3世のほとんどは中国語の読み書きはできない。

 今でこそタイの経済、そして政治も牛耳る中華系タイ人だが、移民としてタイにやって来たばかりの17世紀から1900年代初頭は、現在のタイに流入するカンボジア人やミャンマー人単純労働者同様に港での荷役作業や道路工事などの3K職に就いていた。当時の彼らは祖国で本当に貧しくて学もなかった上、タイ人の狡猾な政治手腕などでこのような底辺に這いつくばるしかなかったのだ。そして、彼らは一生懸命にカネを貯め、子どもたちを学校に行かせた。1910年ごろからタイ政府は華僑へ帰化を勧め、タイで産まれた子どもには国籍を与えたことで、タイの華僑たちはさらにタイ文化に溶け込んだ。そして、彼らのアイデンティティーがタイのそれに同化したのだ。

 そんなわけで、現在では逆にタイ人の先祖を辿ったら中国の血に辿り着くはずだといわれるほどに中華系が馴染んでいる。中国からの観光客も非常に多く、パタヤやプーケットなどリゾート地はかつては日本語での呼び込みばかりだったのが、今ではアジア人を見るととりあえず中国語で話しかけるほどになっている。

 かといって、強力に親中かというとそうでもないのがタイらしい。今年2月のニュースではタイ北部チェンマイで、「中国人がタイ大学生の卒業式用正装を着て記念撮影をしていたのは侮辱だ」というのと「有名な寺の池で中国人観光客が子どもに大便をさせたので中国人観光客は出入り禁止」というニュースが相次いだ。観光地や仕事上、生活レベルでは中国人のマナーの悪さに対する苦情はよく聞かれる。タイは政治的・経済的な反中はあまりないが、個人レベルでは常時中国人にカチンときている……というのが真相のようだ。

<取材・文・写真/高田胤臣>


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