分煙には誰も反対しない。ただ、完全禁煙派の主張は傲慢すぎるのでは?――受動喫煙防止対策検討会

 東京都では、昨年の11月から全五回の予定で「受動喫煙防止対策検討会」において議論が行われている。検討会設置の背景となっているのは20年に開催される東京オリンピックだ。北京やロンドンあるいはソチなど、近年五輪が開催された都市では、開催に先駆けて屋内施設での全面禁煙を定める条例が制定されるという流れができつつあり、都でもそれに倣って条例を制定するか否かを、検討会を通して探っていると言えるだろう。

禁煙 これまでの検討会を傍聴する限り、受動喫煙の有害性については概ね検討会の意見は一致しているといえる。その上で分煙なのか禁煙なのか、あるいは完全分煙化が困難な小規模飲食店はどうするのか、という点が議題となってきた。

 2月12日に行われた第四回の検討会においては、主婦連合会による意見陳述があり、受動喫煙防止の条例化と最終的な全面禁煙を求めつつも、過渡期においては「消費者が選択できる権利を確実に行使できることが重要」として、例えば分煙なら空間分煙なのか物理的に分煙なのか、基準の明確化を求めるとした。全面禁煙は確かにわかりやすいが、現状ではこれが最も現実的な意見だろう。

 検討会も第四回となり、そろそろ最終的な報告書を導き出さなければということで、法学者の座長がとりまとめ案を提案した。これまでの委員の主張や各団体の意見陳述を踏まえたもので、受動喫煙の有害性を認めて何らかの規制の必要性を認めつつ、法学的観点から罰則付き条例の制定は困難であろうという内容だ。医師を中心として委員からは罰則規定付きの条例を定めるべきとの声も上がったが、本来的には受動喫煙の規制については中央政府が行うことが望ましく、地方自治法の関係もあるとのこと。

 そのとりまとめ案にあった、喫煙自体については「政府が個人のライフスタイルに介入することは、原則として許されないと考えるべきであるから、当人に有害な障害であっても、喫煙の自由は尊重されるべきである」という文言について、委員の一人から報告書にはそぐわないのではないかという意見が出た。近代の人権思想に照らし合わせれば至極妥当な意見で、受動喫煙問題の解決とは別の話だろう。これも認めないとなると、禁煙運動は憲法の精神を凌駕するということになってしまう。

 また、「昔は飛行機やタクシーでも喫煙できたが、一旦禁煙と決めればそういうものかと思って皆吸わなくなっている」という意見もあった。確かにその通りで、何か社会ルールを変える場合、中国や北朝鮮のように有無を言わせず強権的に国民に従わせるのが手っ取り早い。日本人の国民性を鑑みても、飲食店などにおいてもそうなるであろうことは十分に予測できる。ただ、「お上が決めれば、下々の民は結局従うしかないのさ」というのは、それは禁煙化が“絶対善”であるという見地に立つ、少しばかり傲慢な考え方とは言えないだろうか。規制をすれば、飲食店など一時的にせよ経済的な打撃を被るだろう。大手はまだしも特に零細飲食店にとっては死活問題で、廃業して人生変更を余儀なくされる人も出てくるだろう。それも止む無しということだ。

 第三回の検討会においても、東京都医師会から「喫煙者は既に1/5の少数派であり、マジョリティーに眼を向けるべき」といった趣の意見陳述がなされており、これも民主社会が担保するマイノリティの権利を最大限に考慮するという精神を、少しばかり軽視していると言えなくもない。

 もちろん、規制がないからといって喫煙者がどこでもタバコを吸えるようであるべきと言うつもりはない。また、医学という専門分野に携わる人にとって、「原因がわかっているなら、それを完全に排除するにはどうするべきか」という考えに至るのは当然だとは思う。ただ、それがある種ドグマ化して一方向に突き進むというのは、誤解を恐れずに言えば、受動喫煙の害云々という話であろうとなかろうと、思考の在り方として、“危険思想”に繋がりかねないのではという懸念が残る。

 ちなみに、世界で初めて行政主導の禁煙キャンペーンを推し進めたのはヒトラーのナチス政権だとされている。この歴史事実が意味することも、一応知っておいたほうがいいだろう。

 そうした中、福島原発の事故以後の東京における放射能の影響に関して精査されているとは言えない中で、受動喫煙の有害性だけは絶対的なものとして規制は当然とする風潮に違和感を覚えるとした一人の委員(医師)の発言は、今回の検討会で最も印象に残るものだった。確かにその問題は、もっと議論されてしかるべきと思える。
<取材・文/杉山大樹>


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