ベネッセ・原田泳幸さん「疫病神批判」とプロ経営者の相克――山本一郎【香ばしい人々returns】

原田泳幸

原田氏2011年の著作『勝ち続ける経営—日本マクドナルド原田泳幸の経営改革論』 

 山本一郎です。賛否両論は良いことです。  かねてから、ベネッセの個人情報流出問題でお詫びに追い込まれた経営者、原田泳幸さんについては、証券市場でも評価の分かれるところでありまして、いわゆる「外資系ホッパー」と呼ばれる外資系企業のマネジメント職を転々とする経営者像に嵌るところが大きいこともあって評判が芳しくありません。  その前職がまさに日本マクドナルドの経営者であったことを考えると、文字通り「進んでも謝罪、戻っても謝罪」という企業スキャンダルを運命付けられているポジションにあるのが原田さんであるため、株主からすると疫病神、貧乏神批判に晒されやすいのもまた原田さんの運命的なところなんですよね。  そんな原田さんが、我らの『プレジデント』にて「疫病神批判に答えよう」とかいう記事に登場。「そんなインタビュー依頼、断っとけよベネッセ広報」と思いつつも、読んでみると「答えよう」と大見得切っておきながらまったく回答になっていないあたりが原田さんの原田さんたるところと言えましょうか。さっそくリテラとかいう噂の真相チームがカウンターパンチを繰り出しており、実に興味深いところであります。 ●ベネッセホールディングス会長兼社長 原田泳幸「疫病神批判に答えよう」(http://president.jp/articles/-/14507) ●やっぱり疫病神? マック異物混入・赤字転落は元CEOの原田泳幸が原因だった!?(http://lite-ra.com/2015/02/post-844.html)  やはり最大の突っ込みどころはアップルコンピュータの日本法人社長に就任したくだりで「私がアップルジャパンの社長を引き受けたとき、会社はすでにどん底状態でした。私はそれを知ったうえで、再建を引き受けたのです。販売店へのリベートを根本から見直し、「iMac」をヒットさせ、V字回復へ導きました」などと、あたかもiMACの成功は自分の功績であるかのように語ってしまうところでありましょう。  ある意味で、原田さんの経営者人生というのはいろいろとホップし、スピンしていった先の企業にヒット商品があれば大きく舞い上がるし、個人情報漏洩があれば謝罪会見でぶっ叩かれるし、そういう浮沈は原田さんの力量とはまったく関係ないところで動いているということです。  一個人の運不運の問題に帰結させるのは良くありませんが、ベネッセもアップルコンピュータも、その成功もトラブルも原田さんには直接関係なく、マクドナルドも経営企画主導での事業再構築、リストラを断行して得た利益の先に何を事業として積み上げるのか具体的な指揮をとる前にホップしていってしまうのが原田流です。下で働く人間からすればたまったものではないでしょうが、企画部門からすればいろんな仕事を試すことのできるトップですから、決して悪い人物ではないのでしょう。ただ、残念ながら企業を永続的なゴーイングコンサーンであり、株主と経営陣と従業員と顧客の運命共同体だとしたときに、あまりにもドライで、非常に強引な手法で短期的な利益を確保しようとし、徐々にサービスが低下し、リピーターが減っていく中で原田さんが経営者として何をしたのか、いま一度しっかりと検証する必要はあると思います。  しかも、原田さんの評価について言うならば、有能無能というベクトルではなく、組織として有害とか悪質というような表現で語る関係者がちらほら見られるのも事実です。それは、原田さんからすれば「会社のためを思って、利益体質に転換するために舵を切った」と信じて疑わないようにも見えます。経営者の言い訳としての「孤独」という表現もまた、とても原田さんらしいリーダーシップの裏返しであり、ある意味で安定した組織の中でいかにトップとして博打を打つのか、変化に対応するのではなく自ら変化を率先する組織体にしたいという気持ちの表れなのだろうと感じるわけであります。  横河ヒューレットパッカードを原田さんが辞めていくにあたっては、本人談も含めて諸説あるのですが、システマチックに合理的な組織の中にいることが原田さんにとっては非常に苦痛の大きいことなのでしょう。なぜ、現状を変更して手を打たないのか、できることがたくさんあるのに、組織内の手続きや販売店その他のしがらみで先に進められないのか、というせっかちな気質が相当に影響しているように思います。  そうなると、マクドナルドやベネッセのように、子供のころから親しみを持たせ、長い年月家族と向き合って、その子供たちが親になっても引き続きマクドナルドやベネッセのサービスを家族ぐるみでまた受けてもらおう――というような、20年以上という非常に長期の信頼関係を顧客と築くための作法やブランドの形成という点では原田さんはそもそも向いていない経営者だったのではないでしょうか。もっと脊髄反射が求められるような生き馬の目を抜く世界で切った張ったの勝負を陣頭に立って経営していくスタイルのほうが、本来彼ができることとやりたいことのマッチだったのでないかと感じるのです。  翻って、ビッグビジネスにおいて原田さんが財務面で行ってきたことを見ると、あまり積極的に調達を行ったり、大規模なM&Aをしたりといった、パワープレイをしていません。これは、手駒の中で勝負をしたい気質を持っているのか、買収や合併候補先が原田さんとの信頼関係は築けないと考えてディールが成立しないのか分かりませんが、外資系ホッパーにしてはブリブリ買収戦略を回してレバレッジを効かせて大きく上を狙っていくような経営はしていないのは意外なことです。原田さんのスケールが小さいのではなく、結構堅実に新しいことをどんどんやろうとして、全部外れた結果がマクドナルドやベネッセの顛末なんじゃないかと感じるわけであります。  とはいえ、ベネッセは就任早々に大変なトラブルに見舞われ、原田さんが取り組みたい経営課題への対処もまだこれからでしょうし、結果を云々するのは早計かもしれません。それこそ、思わぬ僥倖がアップル時代のように降ってくるかもしれませんし、経営者としてというよりは人間・原田泳幸の運不運、浮き沈みはしっかりとウォッチしていきたいと思っています。 <文/山本一郎> やまもといちろう●1973年東京都出身。アルファブロガー。ネット業界やゲーム業界に精通し、投資業務とコンテンツ開発をメインにWebで数々の評論活動などを行う。イレギュラーズアンドパートナーズ株式会社代表取締役。最近では子宝にも恵まれ、仕事と家庭を両立させつつも、さらにシミュレーションゲーム、プロ野球の応援などにも精を出す。
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