『モンベル 7つの決断』。熱すぎるゆえに一読の価値あり――【深読みビジネス書評】

モンベル 7つの決断

モンベル 7つの決断

 オジサンの話は、往々にして面倒くさく、自慢話も多い。  ただ、多少面倒くさくとも、「人生経験を積んできたからこそ、語りたいエピソードや、伝えたい思いが数多く蓄積されているのだろうな」と好意的に解釈し、「何事からも学べるところがあるはず」とお説を拝聴するのが大人のたしなみだ。なかには本当に興味深い逸話や、含蓄に溢れた訓話をしてくれるオジサンもいるから、たとえ第一印象が煩わしくても、まずは一聴してみるのが正解なのだろう。  このような姿勢、実は“社長本”を読むときにも効果的だったりする。  ビジネス書には、会長や社長、役員など企業経営の中枢を担うポジションで仕事をしてきた(している)人物の著作──社長本が数多く存在する。  ベストセラーに名を連ねるタイトルも少なくない。たとえば、松下幸之助氏(パナソニック創業者)や盛田昭夫氏(ソニー創業者)といった、日本経済史に名を刻む偉大な経営者たちの一連の著作には、長らく読み継がれている名著が並んでいる。稲盛和夫氏(京セラ・KDDI創業者。日本航空名誉会長)の著作も、新旧のタイトル含めて人気が高い。  また、孫正義氏(ソフトバンク社長)、柳井正氏(ファーストリテイリング会長兼社長)、三木谷浩史氏(楽天会長兼社長)、藤田晋氏(サイバーエージェント社長)、堀江貴文氏(元ライブドア社長)といった面々の著作も、刊行されると間違いなくビジネス書ランキングの上位に入ってくる。  社長本とひと言で括っても、その内容や語り口はさまざまだ。組織を束ねる者としての思想や理論を丹念に解説していくもの、自身の失敗経験や挫折を赤裸々に告白するようなもの、実務者としての経験則に基づいた仕事術・ライフハックを語るもの、成功者として会得した人生哲学や生き方を説くものなどなど、扱われる内容は幅広い。  そのなかでも、自分の半生や職業人としての歩みを回顧するような自叙伝は、わりと頻繁に目にするものだ。それだけに、当たり外れの度合も大きい。率直に言ってしまうと、「結局、この人は一冊まるまる使って、自慢話がしたかったの!?」と鼻白んでしまうようなタイトルも多いのだ。「自分はこんなに斬新なアイデアを思いついて、成功した」「どんな困難が現れても、怯むことなく取り組んで、信念を貫いた」といった自身の成功体験を、臆面もなく、行間から自己顕示欲をダダ漏れさせながら語り尽くす。  せめて、たまには失敗談や自分の弱い一面でも素直に披露してくれたら、まだ共感できるものの、そうした局面ですら「自分は負けなかった」と己を高く見せるためのギミックとして、妙にキレイにまとめてしまったり……。もしくは、そうした局面についてまったく語らないまま、「信念の経営者」「強い職業人」といったプレゼンスのみをアピールし続けるような御仁もいる。読んでいて、ひたすらムズムズしてしまう本も、ないわけではない。そういう意味では、社長本には“地雷本”も多いといえる。  さて、今回紹介する『モンベル 7つの決断』は、読者にとって、ある種の踏み絵になるような一冊といえるだろう。もしこれを読んで、前述したような自慢臭を多少なりとも感じ取ってしまった人は、その他の自叙伝的な社長本を読んだら、おそらくムズムズしっぱなしになるに違いない。  しかしながら、同じ自慢話に触れるにしても、どうせなら面白く、興味深い自慢話に耳を傾けたいもの。そして、自慢話のなかから、自分の血肉にできるようなエッセンスを抜き出して、蓄積していくのが賢い読者の目利きではないだろうか。  本書の著者は、日本有数のアウトドア用品メーカー・モンベルの創業者であり、現在は同社の代表取締役会長を務めている辰野勇氏。思春期に登山に魅了さた辰野氏が、28歳で会社を設立するところから、現在に至るまでの道程を振り返り、さらには将来の展望などを語っていく。  タイトルにもあるように、折々で下してきた「決断」をタテ軸に、起業からの時間の流れをヨコ軸にして、企業の成長や自身の思いの変遷などを説明していくスタイルなのだが、辰野氏の信念の深さ、実行力の高さが熱気のようになって、行間から滲んでくる。この熱気が、ときどき濃厚だったりもするので、読んでいると元気を注入してもらえる反面、場合によっては独特の暑苦しさに食傷気味になる可能性も否定できない。  ちなみに蛇足ではあるが、(ビジネス系自己啓発書のビックタイトルである)『7つの習慣』を意識したような、『7つの決断』というフレーズをタイトルに冠しながら、読んでみると決断が8コ語られているあたり、ちょっと違和感を覚えてしまった。正直に『8つの決断』でもよかったのではないだろうか。  とはいうものの、本書が魅力的なビジネス書であることは確かだ。辰野氏は、自身の経営哲学や経営者としての姿勢を、登山になぞらえて語る。リーダーシップにしろ、リスクマネジメントにしろ、企業経営と登山は「酷似している」と辰野氏。海外の有名アウトドアブランドとの業務提携と決別、価格リストラ(「小売店に納める卸価格はそのままに、メーカー希望小売価格〈定価〉を2割から3割一気に下げる」ことで、店頭価格を安定させ、値引き競争を抑える)、阪神・淡路大震災や東日本大震災の義援活動など、本書で紹介されているさまざまな取り組みに、辰野氏の矜持や覚悟が通底している。  加えて、経営者としての辰野氏をより魅力的にしている要素がある。それは、日本が脈々と受け継いできた、家族主義的企業経営を一貫して重視してきた点だ。終身雇用制度へのこだわりなどを語る「日本型経営の美徳」というくだりにも、そうした辰野氏の思いが熱く綴られている。  本書は自伝的社長本の入門編として、社長本にありがちな独特のクセ、内容的な傾向、語り口などを大まかに掴むことができる、とても取っ付きやすい一冊といえる。社長本によく見られるパターンを自分なりに押さえておくと、類書を深掘りしたりする際にも役立つだろう。  最後に一読者としての勝手な要望を最後に述べるなら、辰野氏の良質な自慢話は存分に堪能させてもらったので、次はぜひ、率直な失敗談あたりを語っていただきたいところだ。 <文/漆原直行
モンベル 7つの決断

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