仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

仮想通貨の影響でグラフィックボードが品薄

 仮想通貨による影響は、HDDの品薄だけではない。計算をおこなうグラフィックボードの不足も招いている。この1年ほどで、グラフィックボードの平均単価は66%上昇している(BCN+R)。品不足のために、販売が抽選になっている店もある(GAME Watch)。  こうしたHDDやグラフィックボードの価格上昇や購入制限は、仮想通貨を利用しない一般の人たちに、いびつなしわ寄せとなっている。  グラフィックボードの品不足の大きな原因は、仮想通貨の価格の急上昇だ。Coinbase Bitcoin の価格チャートを見てみよう。ALL をクリックすると全期間の価格の推移を確かめられる。この1年ほどで急激に上昇しているのが分かる。  仮想通貨のマイニングで儲けるためには、グラフィックボードが必要だ。そのため、密輸組織も目を付けている。4月の上旬には、密輸業者から大量のグラフィックボードを応酬したというニュースがあった(Yahoo!ニュース)。  本来必要としている人にグラフィックボードが届かない問題は、供給元でも問題と考えている。  グラフィックボードを開発している NVIDIA では、仮想通貨のマイニングアルゴリズムを検知した際に性能が半減するグラフィックボードを、2月に発表している。またマイニング向けのグラフィックボードも発表している。ゲーマー向けとマイニング向けのハードを分けて、市場の問題に対処しようとしているわけだ(AUTOMATON)。

電力消費、物理部品、仮想通貨は”仮想”な存在なのか

 仮想通貨の維持には、様々な現実世界のリソースが必要となる。  仮想ではない現実の通貨を考えてみよう。硬貨や紙幣には製造コストが掛かる。それらを流通させるには、銀行などの施設が必要になる。  日本の硬貨や紙幣の製造原価を見てみよう。まずは硬貨だ。1円玉は約3.1円、5円玉は約10.1円、10円玉は約12.9円、50円玉は約12.1円、100円玉は約14.6円、500円玉は約19.9円となっている。紙幣は1枚あたり約17円といったところだ(三菱UFJ信託銀行)。  日本の通貨の維持管理全体では、どのぐらいの金額が掛かっているのか分からない。その一部として日本銀行の予算を見てみよう。銀行券製造費(紙幣の分)が542億円。予算の合計は1892億円となっている(日本銀行)。  仮想の通貨でも現実の通貨でも、通貨を成立させ継続的に利用可能にするには、何らかの費用が掛かる。そうしたコストを掛ける価値が、仮想通貨にはあるのだろうか。  仮想通貨の価値は、現実の通貨よりも安定していない。仮想通貨の高騰は、オランダのチューリップ・バブルに例えられることが多い。  1634年から1637年に起きたこのブームでは、チューリップの球根が投資対象と見られて、価格が上昇した。多くの人が、未来の価格上昇を見込んで、この取り引きに参加した。そしてバブルが崩壊した(ワイズ)。仮想通貨も同じような経過を辿るのではないかと考える人たちも多い。  Bitcoin の最初の論文が公表されたのが2008年10月。New Liberty Standard で初めて価格が提示されたのが2009年10月。世界初となる Bitcoin の取引所 Mt.Gox がサービスを開始したのが2010年7月。それから10年強しか経っていない(Coincheck)。  5月になって、Bitcoin は大型アップデート Taproot の実装テスト開始を発表した(CoinPost)。様々な問題を抱えている仮想通貨だが、継続的な改良もおこなわれている。  仮想通貨が、未来の通貨として確たる存在になるのか、投機対象で終わるのかは現時点ではまだ分からない。 <文/柳井政和>
やない まさかず。クロノス・クラウン合同会社の代表社員。ゲームやアプリの開発、プログラミング系技術書や記事、マンガの執筆をおこなう。2001年オンラインソフト大賞に入賞した『めもりーくりーなー』は、累計500万ダウンロード以上。2016年、第23回松本清張賞応募作『バックドア』が最終候補となり、改題した『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』にて文藝春秋から小説家デビュー。近著は新潮社『レトロゲームファクトリー』。2019年12月に Nintendo Switch で、個人で開発した『Little Bit War(リトルビットウォー)』を出した。2021年2月には、SBクリエイティブから『JavaScript[完全]入門』、4月にはエムディエヌコーポレーションから『プロフェッショナルWebプログラミング JavaScript』が出版された。
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