コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

『ビーチ・バム まじめに不真面目』も要チェック

 最後に、『ジェントルメン』で実質的な主人公であったマシュー・マコノヒーが主演を務めた映画、『ビーチ・バム まじめに不真面目』も紹介しておこう。こちらも、緊急事態宣言中(4月30日)に上映が開始された作品だ。  その内容は、かつて天才と讃えられた詩人が、大富豪である妻の莫大な財力に頼り、アメリカ最南端の楽園で悪友らとつるみ、どんちゃん騒ぎの日々を送る、というもの。浜辺でうたた寝し、酒場を飲み歩き、美女と気ままに遊び、時おり思い出したようにタイプライターに詩をしたためる……という自由気ままな生活は、何でも自粛が促される今に観ると、より羨ましくなるだろう。  正直に言って、主人公は成長も反省もしないため、良くも悪くも共感はできない。ストーリー性は薄めで、95分という短めの上映時間であっても間延びした印象もあった。だが、その「どうしようもない」「怠惰」と思える印象さえも、むしろ狙ったもの、作品にとってはプラスだろう。登場キャラのほぼ全員が頭のネジが飛んでいるというアバンギャルドさも楽しく、ギャグにもなかなか切れ味があり、特に「イルカツアー」のくだりは爆笑ものだった。  何より、『ジェントルメン』ではピリピリとした空気を醸し出すカッコいい大人だったマシュー・マコノヒーが、『ビーチ・バム まじめに不真面目』ではどうしようもないクズになっているという、演技の幅の広さを知ることができるのが嬉しい。前述したように、どちらもコロナ禍の今に観てこそ清涼剤となる作品であるので、ぜひ合わせて観ていただきたい。 <文/ヒナタカ>
雑食系映画ライター。「ねとらぼ」や「cinemas PLUS」などで執筆中。「天気の子」や「ビッグ・フィッシュ」で検索すると1ページ目に出てくる記事がおすすめ。ブログ 「カゲヒナタの映画レビューブログ」 Twitter:@HinatakaJeF
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