2021年2月3日。東京オリパラ組織委委員会の森喜朗会長(当時)が臨時評議員会で「女性理事を選ぶってのは、文科省がうるさく言うんです。だけど、女性がたくさん入っている理事会は時間がかかります」と女性蔑視発言をした。首相時代から時代錯誤な発言を繰り返す森氏は翌4日に謝罪会見を開くものの、質問する記者に「面白くしたいから聞いているんだろう」などと逆ギレ。森氏はこの謝罪会見で乗り切ろうとしていたものの、当初は火消し役側だったIOCでさえ、森氏の発言は不適切と立場を変えてしまった。さらに、聖火ランナーや大会ボランティアから辞退するものが続出。2月11日に森氏は退任に追い込まれる。しかし、後任を指名し影響力を残そうとする動きも見せる。その後も高齢の女性に対して、「女性というにはあまりにもお年」などと相変わらずのジェンダー意識が皆無な独自の発言を続けている。森氏の一連の言動は日本社会を象徴するものと国際的に報道された。
しかし、このジェンダー問題は森元首相だけでなかった。1年延期で開会式などの規模が縮小する方向になったため2020年12月に野村萬斎氏らの当初の演出チームは解散し、CMクリエイターの佐々木宏氏が開閉会式の演出の統括役となっていたが、その開会式に出演予定のタレントの渡辺直美さんを「オリンピック」を文字って「オリンピッグ」Pigと豚にして扱う演出案を考えていたことが3月17日に週刊文春によって明らかになってしまう。3月18日に佐々木氏は辞任する。
オリンピックは日本の観光立国としての起爆剤と考えられてきたが、コロナ禍のため3月20日に海外観客の受け入れを中止を決定。直接的な観光業などへの打撃は2~3000億円ほどになると指摘されている。
菅義偉首相は「2021年夏の東京オリンピック・パラリンピック大会を新型コロナウィルスに人類が打ち勝った証に行うのだ」と2020年9月に就任して以来、繰り返し表面してきた。しかし、先進国ではダントツに低いワクチン接種率、誰でもいつでもPCR検査が受けられる制度は未だにできておらず、コロナの病床も人的資源も患者数に比べてあまりにも少ない。さらに、変異種が猛威を振るう第4波が日本を襲おうとしている2021年4月20日現在、大会まで100日を切っているというのに、東京や大阪などに3度目の緊急事態宣言の発令が検討されている。新型コロナウィルスに打ち勝った状態からはほど遠い。
4月中旬に訪米した菅首相はバイデン米大統領との共同の公式記者会見で、アメリカの記者から、「公衆衛生の専門家から開催の準備ができていないという指摘がある。(今夏の五輪開催は)無責任ではないか」との質問が出たものの、首相はその質問を無視し答えない姿が全世界に配信された。そして、日本の共同通信の記者を指した。日本の記者なら忖度してくれると思ったのだろうか。
56、いや57年ぶりに開催されようとしている東京オリピック、パラリンピック大会には上述してきたような様々な問題があった。しかし、最大の問題はこれから起きることかもしれない。「人類がコロナに打ち勝った証」としてではなく、世界中がコロナ禍の中で苦しんでいる中でオリンピックを強行する。どの世論調査でも国民の7割以上が2021年夏の東京五輪に反対している中で強行開催する。そのこと自体が最悪の問題になりかねないからだ。
この夏の開催に反対している7割以上の世論も、開催そのものに反対している人ばかりではない。感染が収まった後に海外からの観客も入れて通常の状態で開催して欲しいと思ってる人も多いはずだ。
新型コロナウィルスに関する日本政府の対策については大いに問題はあるものの、感染が起きたことそのものは日本政府の責任ではない。だから、感染が収束していない現状では、選手と観客の命と健康を第一優先として、開催を中止したり、延期しても誰もその責を問えるものではない。決めたことでも、間違っていたり、環境が大きく変わったから計画を変更するのは当たり前のことだ。しかし、決めたことだからと、この夏の開催を強行し、観客、日本国民、アスリートに感染させたり、また、世界中のアスリートが帰国してから、各国に新たなウィルスを持ち込む要因に五輪がなり、感染が広がった場合、それは、日本政府と東京都の責任である。一度決めたことだからと、大きな犠牲を出しても強行した悲劇を日本は太平洋戦争中に経験している。兵糧のプランもなく強行し3万人の犠牲者(多くは戦闘での戦死でなく餓死や病死など)を出したインパール作戦だ。2021年の夏に再び東京でインパール作戦のような悲劇が起きないことを心から祈ってる。
<文/佐藤治彦>