さらに福祉制度についても大きな穴があった。身体障害者手帳1級の心臓病を抱える母親は、本来なら訪問看護の対象だ。しかし、訪問看護のステーションがない地域のため派遣できなかったという。この時点で問題だが、ケースワーカーが来たときも「ご家族がしっかりされているので大丈夫ですね」と帰っていってしまったと杏璃さんは話す。
「祖父母は地域にいい顔をしたいし、私もどこまでが人に相談していいことで誰に相談すればいいかわからない。問題がすべて家の中で閉ざされていたこと。今ではそれが一番の問題だったと感じています」
誰も解決策を持たない? 「おうちのことだから」ではなく対策を
杏璃さんは当時を振りかえり、助けを求める先がなかったと話す。
「学校の先生などの大人に相談しても『辛いけれど頑張りなさい』と言われるだけ。『おうちのことだからおうちでね、何もできません』って。辛い気持ちを吐き出したくても、友人には親が離婚したと言うだけで『聞いちゃいけないこと聞いてごめんね』って返される。場の雰囲気が暗くなるからそれ以上話せないし、誰も解決策を持たないんだって思った」
また、大きな問題としてケアラーもその家族も元気なふりをしてしまうことがあると杏璃さんは強調する。
「『うちには何も問題は起きてないですよ』って、地域、友人にいい顔をしてしまう。『心配かけたくない』、『変な目で見られたくない』ってどんどん閉鎖的になっていく。元気に見せることで周りに心配をかけないようにしたい、うちの状況を見せたくない。ケアラーはみんなそうだと思います。自分たちのことを話しやすい場所、今あるのかな」