それから数年、菊池さんは今年で30歳を迎えた。節目の年齢を迎え、今の自分に不安を覚えることは多いという。
「結局飛び抜けて売れることもないままに30歳になってしまいました。昔より仕事もどんどん減ってきた。このままではいつか、女優としての仕事はこなくなるでしょう。でも、セクシー女優としての生命以上に、今の環境が大切になってしまった。実は、社長のことが好きになってしまったんです。
社長はもう歳だし、既婚者でお子さんもいます。私と一生、一緒にいてくれるわけじゃないのは分かってる。でも、売れない女優の私を別宅に住まわせ続けてくれて、週に数回は様子を見に来てくれる。身体の関係もあります。勘違いしちゃいけないって分かっているけど、特別な存在と思ってくれているんじゃないかって、期待しちゃうんです。女優として売れなくなっても、彼のそばを離れたくない」
ふたまわり以上も歳の離れた男性に、恋心を抱えているという菊池さん。両親と折り合いが悪かったというが、特に父親との関係がよくなかったという。不在になっている理想の父親の面影を見ているのかもしれない。
「この仕事を始めてから知り合う男性は、私のことをセクシー女優としてしか見てくれません。私の中身に魅力を感じていなくても、セクシー女優だから付き合いたいんだという下心が見える人ばかり。結局、恋人はひとりもできたことがありません。
でも社長だけは、私のことをひとりの女性として見てくれた。事務所の稼ぎ頭じゃなくても、優しくしてくれる。実の父親ですら、こんなに親切にしてくれたことはなかった。私はいつか、女優として働けなくなる時が来る。その時に、もし彼が私を愛人としてそばに置いてくれたらいいなって……そう思うしかないんです」
仕事がなくなる前に転職をする、というつもりもないという。安定した将来よりも、好きな人といる今ができるだけ長く続いてほしい、と苦笑しながら語る菊池さん。
「看護師に戻ることも、もうできないんじゃないかな。現場から離れすぎているし、コンプラ的にどうなのかなって、自信がないです。今の仕事をやめて、彼と離れて暮らす自分も想像がつかないです。
昔は結婚願望も強かったけど、もう無理なんじゃないかなって思っています。自分のことを受け入れてくれる人が、彼以外にいると思えない。あと何年こうしていられるかわからないけど、今の生活が終わるなら、その時に死んでしまいたい。40歳になったら、女優としても本当の私も、生きてないかもしれないですね」
仕事として、何人もの男性と性体験や擬似的な愛を演じてきた菊池さん。誰よりも、愛に飢えているように見えた。
<取材・文/ミクニシオリ>
1992年生まれ・フリーライター。ファッション誌編集に携ったのち、2017年からライター・編集として独立。週刊誌やWEBメディアに恋愛考察記事を寄稿しながら、一般人取材も多く行うノンフィクションライター。ナイトワークや貧困に関する取材も多く行っている。自身のSNSでは恋愛・性愛に関するカウンセリングも行う。