玉砕主義に抗い、県民の命を守ろうとした知事を描く『生きろ 島田叡(あきら)―戦中最後の沖縄県知事』監督インタビュー

最後まで無私を貫いて

――島田県知事が、県民に寄り添おうとする一方で、内務官僚として軍の命令に従い、自分の職責を果たそうとするジレンマがよく伝わって来ました。このような姿勢は沖縄県民の方々に知られているのでしょうか。 佐古:1951年に島田を知る県庁職員の人たちが中心になって「島守の塔」が建立されるなど、亡くなった職員とともに慰霊され、また語り継がれてきたと思います。しかし、戦後、長い時を経て、知らない世代の方が多くなってきたかもしれません。 ――那覇市長や衆議院議員を務めた『米軍が最も恐れた男 その名は、カメジロー』(‘17)も拝見しました。この作品ではアメリカと対峙する政治家を描き、本作では軍部と対峙する政治家を描いていると感じましたが、瀬長亀次郎と島田叡に共通するものは何だったのでしょうか。 佐古:亀次郎は、占領下で不当逮捕され刑務所に入れられても、自分たちの権利を奪っていたアメリカ側に全く屈せずに戦い続けました。その生き方に勇気をもらった人も多いと思います。  一方で、島田は、県知事として「軍と上手くやる」ということも大きな任務として着任しました。途中で軍のやり方はおかしいと思うようになりますが、軍部の意向にあからさまに反することは住民のためにもならない。軍は「軍官民共生共死」大方針を掲げている。しかし、行政官として住民第一主義の信念のもと、住民を守らねばならない。その狭間でかなり苦悩したと思います。  最後は命令に反する形で県庁の解散を宣言しますが、自分は司令官の元へ行くんですね。そこには、抗うが、自らの責任の取り方として組織に忠実な部分も見える。そして、「生きろ」と周囲に希望を与えるが、自分は絶望の中で消息を絶っていく。  こうして比べてみると、亀次郎と島田の生き方は違うようにみえる。でも、最後まで住民の側に立とうとし、無私を貫いたという点では共通するものがあったと思います。 ――島田は沖縄戦の組織的な戦闘が終結した直後、自ら消息を絶っています。取材を終えた今、彼をそれほどまでに追い詰めたものは何だったと感じていますか。 佐古:「葉隠」を持参していたとのことだったので、最後は武士道の精神だったのかもしれません。あるいは、「これほど役に立たなかった人はいないだろう」という言葉の通りなのかもしれません。島田は軍部から玉砕命令が出されているにもかかわらず、それに背いて、沖縄県庁の解散を宣言していますが、本来の官僚の立場からすればあり得ないことですし、そもそも県知事に県庁解散の権限はありません。しかし、最終的には職員や住民の命を守るための決断をした。その決断には「自分が責任を取る」という意味合いもあったのかもしれません。一つには絞り切れない、様々な要因があったと思います。

同じ過ちを繰り返さないために

――今後、撮ってみたいテーマはどのようなものでしょうか。 佐古:今回もそうでしたが、今後も機会があれば歴史から見えるものを撮ってみたいと思っています。やはり、報道の仕事をしていると過去の出来事から学ぶべきと感じることが多いです。「あの時にどうすべきであったか」ということを検証することがジャーナリズムの使命ではないかと。 2001年の9.11テロの直後、現地のニューヨークに行きましたが、街中に星条旗が溢れ、キャスターが好戦的な発言をしていました。また、メジャーリーグが再開された球場に行くと、USAコールが沸き起こっている。その約1ヶ月後にアメリカはアフガニスタンへ爆撃を開始して報復戦争が始まりました。その時に「こうやって戦争は始まるんだ」と思ったんです。そして、翻ってもし日本に同じことが起きたら、そうならないと言えるのだろうかと。  そして、かつてメディアも国民も同調し戦争になだれ込んだ歴史があります。  そのようなことを引き起こさないために考慮すべき材料が歴史にはあります。未来において同じ過ちを犯さないために、その時々の判断の正当性を後から検証することは必要なことだと感じています。そして、その視点を持ち続けて作品制作をしていきたいと考えていますね。 <取材・文/熊野雅恵>
くまのまさえ ライター、クリエイターズサポート行政書士法務事務所・代表行政書士。早稲田大学法学部卒業。行政書士としてクリエイターや起業家のサポートをする傍ら、自主映画の宣伝や書籍の企画にも関わる。
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映画『生きろ 島田叡(あきら)―戦中最後の沖縄県知事』は、沖縄:桜坂劇場、東京:ユーロスペース他にて全国順次公開中
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