「産む」「産まない」は自分で決めたい。『Eggs 選ばれたい私たち』川崎僚監督インタビュー

©「Eggs 選ばれたい私たち」製作委員会

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 子どものいない夫婦に卵子提供をするドナー制度に登録した20代の女性たちを描く『Eggs 選ばれたい私たち』が全国で公開されています。  子どものいない夫婦に卵子を提供するエッグドナー(卵子提供者)に志願した純子(寺坂光恵)。純子は将来結婚する気も、子どもを産む気もない独身主義者だが、あとわずか数ヶ月で30歳になるというある日、子どもを産まなかったことを後悔する将来の自分を想像し、ドナー登録を決意した。  そして、ドナー登録会を訪れた純子は偶然、従姉妹の葵(川合空)に再会する。25歳の彼女は、恋人と別れて同棲していた家を出たばかり。葵はエッグドナーに登録したことを母親に内緒にする代わりに居候させて欲しいと純子に頼み込み、二人の奇妙な共同生活が始まった。  卵子を選ぶのは、子供を希望する夫婦。そして、エッグドナーには30歳までという年齢制限がある。選ばれれば、ハワイやマレーシアなどの海外で卵子を摘出し、謝礼金がもらえる。選ばれるのは純子か葵か。そして、2人の行く末に待っていたものは――  今回は、20代後半の自らの体験を元に本作を製作したという川崎僚監督に、本作の製作の経緯や今後のテーマなどについてお話を聞きました。

タイムリミットを刷り込まれて

――川崎監督は1986年生まれで、社会に出た時は、既に男女平等や女性の社会における活躍が推奨されていた世代と思います。にもかかわらず、パンフレットに「日本では結婚して、子どもを産むのが一番の幸せだとされている」とあったのが意外でした。そのように感じ始めたのは、いつぐらいからなのでしょうか? 川崎:27、8歳になった頃ですね。私は好きな仕事をして、結婚や子供に対して焦りはなかったんです。ところが、27歳ぐらいで母が結婚して子供を産んでいたこともあって、無意識のうちに「結婚は27歳ぐらいでするんだろう」と思っていました。ところが、その年齢になっても相手は現れませんでした。その時に「あれっ?」と思いました。「努力しないと結婚相手に出会えない」ということを理解したんですね。でも、その時は「まだいいかな」とは思っていました。
川崎僚監督

川崎僚監督

 ところが、周りの女友達に「焦らないの?」と言われ始めて自分も考え始めたという感じです。後から振り返ってみると、実はその友達も周囲に焦らされていただけなんですね。「女性は20代しか結婚相手に選んでもらえない」「子どもは早いうちに産まないと体力がついていかない」「40近くで産んだら子どもが成人する時に還暦になってしまう」など様々な情報に惑わされていたのかもしれません。 ――実際に婚活も経験したとのことでした。 川崎:当時は、結婚相談所も行きましたし、「婚活」と名の付くものは一通り経験しました。  結婚相談所の登録会では「NHKの『産みたいのに産めない~卵子老化の衝撃~』(2012年放送)という番組の中で、‶女性が妊娠しやすいのは20代半ばまでだ″という報道があってから、優秀な男性は20代でなければ女性は子どもを産めないと思っている。それもあって、20代の女性を求める傾向が強いので、28歳で来て本当によかったです。10年後来たら正直同じレベルの方を紹介できません」というような趣旨の話をされたこともありました。  30代になったからと言って、自分の中身が急激に変わることはありませんよね。もちろん、若い女性より年上の女性の方が好みの男性もいると思います。ところが、結婚相談所のような「婚活」のための場所に行くと、「女性は20代でなければダメだ」と社会に先入観を植え付けられているようにも感じてしまいます。

エッグドナーとの出会い

――この作品は卵子提供を描くと共に、アラサー世代の女性の生きづらさも描いています。この2つをリンクさせるきっかけは何だったのでしょうか。 川崎:エッグドナーを知ったのは、新聞で卵子提供を受けたご夫婦の子育ての記事を見たことでした。私は新しい家族の形だと思いましたし、ポジティブに捉えていたのですが、ネット上では「血が繋がってないのに」とすごいバッシングが起こっていました。その時に「誰も不幸になっていないのに、どうして匿名で人のことを批判するのだろう」と思ったんですね。  今の時代、みんな不思議と自分の価値観が正しいと思っており、特にネット上では、何でも白黒付けたがりますよね。そのことに納得できなかったのと同時に、卵子提供をしている人たちはどんな人たちなのかが気になり調べていたら、「エッグドナー」というドナー登録制度がどんなものか分かってきました。
©「Eggs 選ばれたい私たち」製作委員会

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――実際に登録会にも行ったそうですね。 川崎:はい。「ドナー」と言うと、骨髄ドナーのように「誰かのためになりたい」という献身的な姿勢も勿論あるだろうし、理想だと思います。ただ、私の場合はそういった姿勢というより、“自分のため”という気持ちが強かったのは否めません。  というのも、「産めるのに産まない」ということに対しての罪悪感がまずありました。例えば、「少子化対策のために子どもを平均2人以上は産まなくてはならない」という極端なことを言う政治家もいます。それを真に受けるかどうかは別として、自分が産まなくてもドナー登録して卵子提供すれば、誰かが幸せになって、自分も義務を果たせて納得できるということもあるのではないかと思いました。そう思ったら、ドナー提供はとても素敵なことだと感じて、ポジティブになれました。それで、30歳まであと数ヶ月の時に登録会に行ってみたのです。  その時にこの「産むか産まないか」という題材を目の前にすると、私たちの女性の世代が抱えている問題が本当に浮き彫りになると感じました。そういうこともあって、映画の製作を思い付きました。  この映画は卵子提供を扱っていますが、法整備の不備などを指摘するようなドキュメンタリーではありません。私や私の友人たちの「30歳までに結婚して、その後は子どもを産まなくてはいけない」と思い込んでいた、追い詰められた気持ちを素直に伝えたいし、知ってもらいたかった。今、将来を悩んでいる人たちに共感してもらえるような作品を作りたかったのです。
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周囲から「産め」と言われて
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