―― コロナ困窮者の支援活動に参加している人たちは、「困っている人を助けたい」という思いを持っているはずです。そこにはどうしても「善意の押しつけ」が入り込みます。それでも何もしないよりマシではないでしょうか。
伊藤: きっかけは、善意の押しつけでもいいのだと思います。でも、実際に相手と関わってみれば、自分が最初に思っていたのとは違うものに突き当たるはずで、そこに気づけるかどうかが重要だと思います。「最初はこうすれば相手は喜ぶはずだと思っていたけど、実際やってみたら全然違いました」といったことは、決して珍しくありません。相手と関わり、これまで見えなかった部分に気づくことができれば、それによって自分自身も必ず変化します。「他者の発見」は「自分の変化」の裏返しです。相手と関わる前と関わったあとで自分自身が変わっているかどうか、そこが利他を見極める上で重要なポイントになります。
(2月24日 聞き手・構成 中村友哉)
伊藤亜紗(いとう・あさ)●1979年東京都生まれ。東京工業大学科学技術創成研究院未来の人類研究センター。リベラルアーツ研究教育院准教授。MIT客員研究員(2019)。専門は美学・現代アート。著書に『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(光文社)、『どもる体』(医学書院)、『記憶する体』(春秋社)、『手の倫理』(講談社)、『ヴァレリー芸術と身体の哲学』(講談社)など。