宗教だけじゃない、大学生を狙う「怪しい勧誘」。大学・高校でカルト勧誘を断る方法

大学で問題化するマルチ商法

 マルチ商法の中にも、ボードゲーム会、街コン、Zoom飲み会などを通じて勧誘するケースがある。たとえばライターの雨宮純氏が PRESIDENT Online で、その類のマルチ商法についてリポートしている。(参照)  この「環境」という団体は、メンバーをシェアハウスに住まわせたり、別会社が運営する自己啓発セミナーに送り込んでやる気を出させたりという、かなり無茶をする、ほとんどカルト宗教と変わらない危険な団体だ。この団体が過去に「ワンダーランド」という別名称で活動していた頃、自己啓発セミナーを受講させられたメンバーが死亡する事故もあった。  私もこの団体の元メンバーに話を聞いたことがあるが、「基本的には30歳前後の社会人をターゲットにしていた」という。社会人経験をある程度積み、多少の貯金があったり借金が可能だったり、転職や起業のような新展開を夢見ていたりする層を狙っているようだ。他のマルチ商法会社でも「学生への勧誘は禁止」としているケースを聞くこともあり、学生は必ずしも主要ターゲットとは言えない。  しかし主要ターゲットではなくても、いま全国の大学でマルチ商法やそれに類する悪徳商法の被害は問題化している。都内のある私立大学の関係者は、「勧誘されたという学生からの相談の件数で言えば、カルト宗教だとハッキリわかる勧誘よりマルチ商法の方が多い」と語る。  近年では特に、USBメモリに入れた情報商材(投資マニュアルと称するもの)を数十万円で販売するマルチ商法式の「USB商法」が大学生の間に広まり問題化している。  団体名や目的を偽る偽装勧誘に限らず、業者名や勧誘目的であることを明示してくる場合も含めて、マルチ商法は多額の金銭被害につながる。マルチ商法やそれに類するものの勧誘だとわかった時点で、カルト宗教や政治セクトの勧誘同様、スッパリと連絡を絶って逃げるのが得策だ。

マルチ商法はなぜダメなのか

 マルチ商法は法律上「連鎖販売取引」と呼ばれる。販売員が、自分自身と自分の傘下の販売員の売上からマージンを受け取る仕組みのビジネスだ。傘下とする販売員の人数や売上が多いほど上位の販売員の儲けが増える仕組みであるため、販売員は商品の販売をするだけではなく新たな販売員の勧誘にもやっきになる。  法律で規制対象となっているが、全てが禁止されているわけではない。扱う商品は化粧品でも台所用品でも健康食品でも金儲けマニュアルでも、何でもあり。業者ごとに違う。しかし商品が介在せず金銭投資だけのやりとりは「ネズミ講」と呼ばれ違法とされる。  マルチ商法に関わる人々は、自分たちでは「マルチ商法」とは言わない。「ネットワーク・ビジネス」「MLM」(マルチ・レベル・マーケティング=つまりマルチ商法なのだが)と自称したり、あるいは販売方式はマルチ商法でも「金儲けマニュアル」的なものを売る場合は「情報商材ビジネス」と称したり、様々だ。場合によっては「マルチ商法ではない」と言い張るマルチ商法関係者もいる。  だから勧誘された時は、これらの言葉の違いに振り回されず、上記の「マルチ商法(連鎖販売取引)」の定義に当てはまるかどうかをしっかり見定める必要がある。  マルチ商法は、自分自身が商品を買うことから始まる。自分で商品を売るには、売るための商品を仕入れなければならない。初期投資がかかるため、学生ローンなどでの借金を進められる場合もある。一般的にマルチ商法は、マルチ商法である時点で「怪しい」と思われている。初期投資が数十万円規模である場合もあるので、そうそう売れるものではない。始めた際に支払った金額を超えて儲かるケースは稀だと思っておいた方がいい。  販売員ピラミッド構造の中で、上位が下位の販売員の売上からマージンを取る仕組みである以上、上位に食い込まなければ儲からない。上位に行くには、自分が大して儲からないうちでも売上を増やしていくしかない。売上を増やすには、多く仕入れ、寝食を惜しんででも勧誘に精を出すしかない。  しかし、そのマルチ商法を始めた人間やそれに近い人々は別だ。最初からピラミッドの上にいる。下っ端が勧誘に精を出し組織が広がれば広がるほど、儲かるのは彼らだ。マルチ商法では、初期段階から関わっていなければ「成功」しにくい。  彼らは「こうやれば儲かる」「ポジティブになって頑張ればできる」といった類の精神論や自己実現的な理屈で販売員を煽る。しかしそもそも精神論でどうにかなる仕組みではないのだ。  だから自分でマルチ商法を始めた方がいいと言っているのではない。自分が儲かるとしたら、それだけ傘下のメンバーから搾取しているということ。自分友人を誘うとしたら、どんな綺麗事を並べた所で、それはその友人を搾取するためだ。友人が自分を誘ってきたとしたら、その友人があなたから搾取するためだ。  当たり前だが多くの友人を失う。そこまでしてもたいがいは儲からない。フリージャーナリストより儲からない。  カルト宗教や政治セクトと違って、マルチ商法や投資・起業ビジネスは特定商取引法や消費者契約法といった消費者保護のための法律の対象だ。無条件での契約解約(クーリングオフ)できる場合もあるし、勧誘方法や契約内容が違法だったりすればクーリングオフとは別に契約を取り消すことができる場合もある。未成年である場合は、保護者の同意がない高額な契約を取り消すことができる(民法の未成年者契約の規定)。ただし民法改正により2022年以降は成人年齢が18歳となる。  ちなみに占いやスピリチュアル、霊感商法の類も、場合によっては消費者契約法の対象だ。同法では、「霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見」として不安を煽られ契約を結んだ場合についても、契約を取り消すことができると定めている。  契約してしまった場合は消費生活センター等に相談し、契約していなくでも大学内や大学の知人から勧誘された場合は大学の学生課等の窓口に報告しよう。宗教勧誘と同じで、第三者の介入がありうることを相手が知れば、それ以上しつこく勧誘されなくなるというメリットもある。 <取材・文/藤倉善郎>
ふじくらよしろう●やや日刊カルト新聞総裁兼刑事被告人 Twitter ID:@daily_cult4。1974年、東京生まれ。北海道大学文学部中退。在学中から「北海道大学新聞会」で自己啓発セミナーを取材し、中退後、東京でフリーライターとしてカルト問題のほか、チベット問題やチェルノブイリ・福島第一両原発事故の現場を取材。ライター活動と並行して2009年からニュースサイト「やや日刊カルト新聞」(記者9名)を開設し、主筆として活動。著書に『「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島社新書)
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