そもそもこの税金が生まれたのは、コロナ禍によって発生しているワクチン費用の負担、貧困者の救済、中小企業への支援などを目的にして財政的に苦しい立場にある政府に必要な資金を集めたいという願いが要因となっている。
しかし、あらゆる面で部門で税金が課せられるアルゼンチンで富裕者はもう課税にはうんざりしているのが現状のようだ。例えばドルを購入するにも30%の課税、カードを外貨で支払う場合でも30%の課税。更に、輸出にも輸出税(平均12%)が課せられる国だ。
輸出というのは外貨を稼ぐのであるから輸出品目の競争力をつける意味でも課税するのは逆効果になるはず。そこには政府の財政難ともともと輸出への取り組みにこれまで積極性が欠けて来た一面もある。
例えば、『
El País』(2月28日付)が指摘しているが、人口1900万人のチリは年間の輸出額5000億ドルに対し、人口4400万人のアルゼンチンの輸出額は600億ドルしかないということ。
それ故に、アルゼンチンが慢性的な問題として抱えているのが外貨不足である。現在アルゼンチン中央銀行の外貨預金は30億ドルに満たないという。その上、アルゼンチンの国民の間ではペソへの信頼はなくドルを保持しようとする傾向にある。だからペソに対してドル高になる傾向が常だ。それがまたインフレを誘発する要因のひとつになっている。
余剰資金もなく、インフレも常に高騰で、資金難にあるということでアルゼンチンではこれまで紙幣の増発が慣例化している。アルベルト・フェルナンデス政権も、同紙によると、昨年は1兆2000億ペソ(1兆4400億円)の紙幣を発行しているという。その造幣がアルゼンチンだけでは間に合わず、ブラジルとスペインでもそれに協力したというのだ。このシステムはインフレの上昇を招く典型的な例である。案の定、今年1月は3.9%のインフレを記録し、今年のインフレは50%近くまで上昇するというのが既に推測されている。
兎に角、アルゼンチンという国は経済的危機から脱出できない国なのである。政権が代わってもその繰り返しである。
100年前のアルゼンチンは国民一人当たりの所得は英国やフランスと肩を並べていた。当時のブエノスアイレスは南米のパリと呼ばれていた。
しかし、その後政治的な腐敗と投資への怠慢による産業化の遅れから今も輸出品目は農牧畜品が中心で、工業産品は非常に僅かである。
そして、今コロナ禍によって政府は財政難に陥っている。だから、そこから脱皮するにはGDPの1%に相当する資金を集めるべく富裕者に頼らねばならないという状況に追い込まれているということなのである。
<文/白石和幸>