「デジタル改革関連法案」は、誰がための法律か? 国民が知っておくべきこと

菅義偉首相(左)と平井卓也デジタル改革担当相

昨年9月、デジタル改革関連法案準備室の立ち上げ式で、披露されたコンセプトと記念撮影する菅義偉首相(左)と平井卓也デジタル改革担当相(写真/時事通信社)

菅政権の目玉「デジタル庁」実現の法案が提出された

 菅義偉政権の最大の目玉は「デジタル庁」の創設です。菅首相は、2020年10月26日の所信表明演説において「各省庁や自治体の縦割りを打破し、行政のデジタル化を進めます」「改革を強力に実行していく司令塔となるデジタル庁を設立します。来年の始動に向け、省益を排し、民間の力を大いに取り入れながら、早急に準備を進めます」と述べています。  それを実現するための法案が、2021年2月に国会へ提出されました。法案は「デジタル社会形成基本法案」「デジタル庁設置法案」「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律案」の3本からなるパッケージです。  菅首相は、デジタル庁を創設して、何をしようとしているのでしょうか。法案をつぶさに精査し、その意図を見てみましょう。なお、筆者はシニカルな表現を好み、しばしばそうした文章をハーバービジネスオンラインに寄稿してきましたが、本稿はそれを封印し、まじめに精査してみます。菅政権の狙いを正確に読み解くためです。

人権と経済・デジタル化のどちらを優先するのか

 3つある法案の最初の一つは「デジタル社会形成基本法案」です。2000年に制定された「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法」(IT基本法)を廃止し、この法律に置き換えます。  これは、デジタル社会に向けた政府としての基本方針を定めるものです。これに基づいて、関連する政策や予算が企画・執行されます。また、デジタル庁を設置する根拠もこの法に由来します。  本法案は、個人と法人の権利・利益を同列に規定する一方、人権への配慮を規定していません。第10条で「個人及び法人の権利利益の保護等」について「デジタル社会の形成に当たっては」「個人及び法人の権利利益、国の安全等が害されることのないようにされる」と規定しています。一方、IT基本法に存在する「個人情報の保護その他国民が高度情報通信ネットワークを安心して利用することができるようにするために必要な措置が講じられなければならない」との規定は、なくなっています。  これは、実質的に人権よりも、企業の利益を優先する規定となっていることを意味します。なぜならば、現実社会において、人権は経済的利益によって侵害されやすく、人権侵害が懸念される分野の法律は、基本理念や方針、具体的な措置によって、それらを防止しています。それでも、しばしば経済的利益と人権との摩擦が発生します。デジタル化のように、情報流通を促す法律であれば、そうした規定がいくらあっても十分ということはありません。それにもかかわらず、個人の権利・利益と法人の権利・利益を同等としていることから、実質的には企業の利益を優先することになります。  この方針は、他の条項によって繰り返され、基本法を貫く柱となっています。例えば、第26条で「経済活動の促進」を定める一方、第37条で政府に作成を課している「デジタル社会の形成に関する重点計画」で定める事項には、人権確保に関する事項がありません。  さらに、デジタル化に熱心な中国やロシア等の権威主義諸国を含めた「世界最高水準」の達成レベルを定めています。第21条は「世界最高水準の高度情報通信ネットワークの形成」として「世界最高水準の高度情報通信ネットワークの形成を促進するため、事業者間の公正な競争の促進その他の必要な措置が講じられなければならない」と、留保なく「世界最高水準」との達成レベルを規定しています。これにより、人権確保よりも経済的利益を重視する、中国やロシア等と同等のデジタル化を目指すことになっています。  以上の指摘については、賛否両論あって当然です。すなわち、人権よりも経済的価値の方が大切だとか、人権に配慮していたらデジタル化に乗り遅れるとか、プライバシーの侵害が心配だとか、監視社会になるのではないかとか。  重要なことは、人権よりもデジタル化と経済的価値を優先するとの菅政権の方針について、真正面から議論することです。双方の意見にメリットとデメリットがあります。それをつまびらかにし、社会全体で議論することが求められます。どちらも優先するとか、人権侵害の心配はないとか、論点を受け止めないことが、むしろ問題になります。
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首相直轄故に強大な権限が首相の元に
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