それでは、『
インターネット白書’96』を見ていこう。そして、今との違いを確かめていこう。
◆ 第1章 日本のインターネット、この1年の動き
ここでまず挙げられているのは、プロバイダーの急激な増加だ。94年に17社だったのが、95年には105社になっている。Windows 95 に、インターネット接続機能が入ったことが、大きな要因として挙げられている。前年の95年の段階で、日本のインターネット人口は125万人、うち女性は4%と書いてある。モデムの通信速度は、28.8Kbps。通信速度の最大は現在ではギガを越えており、平均実測は数百Mbpsになっている(
みんそく)。
◆第2章 インターネットの概略
こちらは、歴史や組織などについての解説が書いてあり、利用するだけの一般の人には、関わりがあまりない内容だ。
◆第3章は インターネットの現状
現在との比較で興味深い。たとえばインターネットの利用歴は、1年未満が50%を越えている。男女比は、男性93.2%に対して、女性6.8%と、現在とは大きく違う構成だ。地域では関東が50%を越える。
年齢分布では、20歳未満が3.6%しかおらず、20~24歳が26.9%、25~29歳が23.3%、30~34歳が21.6%、35~39歳が11.7%、40~44歳が6.2%になっている。未成年はほとんどおらず、20代から30代前半が中心になっている。この時期の中心層は、現在では40代後半から50代になっている。この世代が、実質的な日本のインターネット第一世代という感じだろう。
職種や業種では、研究・開発、技術、理系の学生といったところが突出している。Webブラウザーについては、Netscapeが80%程度で独占状態にある。
◆ 第4章 インターネットに関する最近の動き
首相官邸のサイトが1994年8月にできており、その後96年1月までに、各省庁が情報発信を始めている。国のインターネット活用は、意外に早くからおこなわれている。
ビジネス分野では、今後活性化が期待されるものとして、電子出版、ソフトのDL販売、マルチメディア、遠隔教育、オンラインショッピングなどが挙げられている。今、身近に普通にあるものは、この頃から予想されていたと言える。
現在とは大きく違うものとして、「パソコン通信との相互乗り入れ」という項目がある。当時は、NIFTY-Serve や PV-VAN といった、インターネット以前のパソコン通信が多くあった。それらとの一体化について触れられている。
また、最新技術としてテレビ会議システムの記述がある。しかし、速度的にまだ実用的とはいいがたいと書いてある。音声・映像のリアルタイム再生についても、まだまだ速度的に困難だったことが白書から分かる。ただ、その萌芽は見てとれて、ライブストリームなどについても紙面が割かれている。
この時期の携帯電話の利用者は、1996年内に1000万人を突破する予定、といった程度だ。PHSやポケベルを含めて2000万人程度。将来的には、ダイヤルアップ接続程度の速度で、インターネットにアクセスできるようになるだろうと予想されている。
セキュリティ技術の項目も設けてあり、当時からセキュリティは気にされていたことが分かる。
◆ 第5章 インターネットのこれから
ビジネス分野では、企業内のインターネット化、情報提供型ビジネス、エレクトロニックコマースが、並べて紹介されている。これらは、ほぼ実現できているだろう。教育分野は、当時から言われていることが、今ようやく進みはじめているように感じる。
放送やエンターテインメント分野では、現在は動画配信が当たり前の時代になっている。出版分野については、電子新聞やWebマガジンと並んで、個人出版が大きく扱われている。また広告についても触れられている。画面に広告を貼り付けて収益化するという方向性は、当時の路線からまだ脱却できていないように感じた。
この章では、インターネットを取り巻く課題についても触れられている。相互接続については現在、ユーザーレベルで意識されることはない。課金については、クレジット決済やネットバンキングについて触れられている。
現在では電子通貨や、各種クーポンなど、決済方法は多様化しているが、その基盤として、クレジットカードやネットバンキングが鎮座している。この構造は、最近では問題が発生している。クレジットカード会社が、特定の名称の商品販売時に、その会社の取り引きを断るなど、インフラとしての不適格さが指摘されている(
山田太郎 ⋈(参議院議員・全国比例))。
ネット上の法律問題としては、著作権問題といった現在にも続いている問題が、この時期から取り上げられている。