Zenn を理解するには、先行サービスとして
Qiita というITエンジニア系情報共有サービスを知っておく必要がある。Zenn が登場するまでは、日本のITエンジニア系の情報共有サービスは、Qiita 一色といってよいほどよく話題になっていた。
今でも、やはり Qiita が強いのだが、Qiita はコミュニティーが大きくなるにつれ、問題点が指摘されていた。
「ポエムが多くなってきた」というものだ。ポエムというのはスラングになるのだが、「情報としての密度が薄い」「お気持ちや感想を綴ったような記事」のことを指す。
コミュニティーが大きくなっていきSNS化していくと、利用者の承認要求が刺激されるようになる。注目されたい。ランキングで上位に入りたい。そうした人の気持ちが入ってくると、話題になりそうなネタを連投するといった行動が出てくるようになる。また単純に、多くの人が利用するようになり、日記的に使われたり、勉強の記録用に使われたり、他人に共有する意味が少ない記事も増えていくようになる。
そうした問題が指摘されていた時期に、Zenn は登場した。それも、記事を「Web上の本」として売ることもできるサービスとしてだ。当時、Qiita +
note と評する人が多かった。ボリュームのある記事を、Web上の本として販売できる。売れるものにするためには、密度の高い内容にしなければならない。
また、Qiita で指摘されていたポエム問題への対策だと思うのだが、Zenn では現状、Tech と Idea という2種類の記事が投稿できるようになっている。
Tech は、プログラミングやソフトフェア開発、インフラなどに関する技術記事だ。サイトに来る人が求めている、問題解決に繋がる記事ということになる。Idea は、個人的な意見やポエム、キャリアについての記事だ。そうした内容を避けたい人は、こちらをスルーすればよい。
Zenn が短い期間で急激に勢力を広げたのは、こうした問題解決が盛り込まれていたこともあるが、スタートダッシュがよかったことも大きい。開設直後、業界で名が知られた人たちが、有料の本を書いて販売した。
技術書典など、技術書の同人誌販売が熱を帯びていた時期だったために多くの人が購入した。そして、有料の本を書いた人の中には、どれぐらい売れたか数字を公開した人もいた(
Zenn)。おかげで大いに盛り上がり、よいサイクルに入った。
初期に本を書いた業界の有名人たちが、運営者と繋がりがあったのかは知らない。しかし、コミュニティーが一気に大きくなるためには、何らかの起爆剤が必要だと感じた。そうしたスタートダッシュがあったために、開設から4ヶ月半という異例の速さでの買収劇となったのだろう。
さて、上手く買収までいたった2つの個人開発・個人運営のサービスを見てきた。しかし現実には、こうした成功したサービスは異例中の異例だと言わざるをえない。
私は色々と、同人界隈、技術書界隈で活動をしている。そうすると、月に数度ぐらい、新しいサービスを使ってみないかという誘いが、Twitter経由で届く。
サービスを立ち上げたら、商品となるものが必要になる。商品がなければ、買う人は来ない。そして、作り手がいなければ商品はできない。そのため、まずは私のような業界の端っこにいるような人にも、営業のメッセージを送るわけである。その結果私は、多くのサービスが立ち上げに苦戦している様子を見続けている。
正直なところ、物が売れるかどうかは、システムが素晴らしいかよりも、賑わっているかの方が大きい。最初の時点で閑散としている印象だったら、そこに自分の作品を登録するために手間を掛けようと思う人は少ない。
地道に賑わいを育てていくか、スタートダッシュをかけられるように賑わいを演出するか。いずれにしても賑わいは大切だ。
Skeb の
創業者インタビューで、代表の喜田一成氏が「コミュニティのプレイヤーであること」の重要さを語っていた。
「この人がやっているなら信用できる」と思われること。初期の賑わいを作るためには、中心人物が「他人」であってはいけないのだろう。個人の、日頃からのコミュニティーへの関与が、正否を大きく分けるのだと感じる。
今後、どんなサービスが出てきて成功するのだろうか。Skeb と Zenn の買収を見て、どんどん明るい話題が続くといいなと思った。
<文/柳井政和>