菅首相が会見などで口にする「~じゃないでしょうか」は何を意味しているのか

18分の「ぶら下がり」に13回も出てきた「~じゃないでしょうか」

 具体的に見てみよう。「~じゃないでしょうか」は13回、「~じゃないですか」は2回、この26日の記者会見の答弁に登場する。まず少ないほうの「~じゃないですか」の1つ目から見ておこう。具体的な発言はこうだ(以下、発言は毎日新聞の一問一答詳報による。なお、記者の問いは、発言そのままではなく、ある程度要約されている)。 「いやですから、基準決めてるわけですから、基準はクリアしてるわけでありますから、その上に立って、やはり予断することなく、それぞれの首長さんも徹底して行うように、時間短縮を8時まですぐやめるんじゃなくて、いろんなことを考えてるんじゃないですか」  これは、感染の再拡大について、専門家からも相当強い懸念が当日の諮問委員会でも示されていることを記者が問うた際の菅首相の答弁だ。この「考えてる」の主語は「それぞれの首長さん」だ。それぞれの首長が、感染を再拡大させないための対策は考えているだろう、という趣旨の発言だ。この「考えてるんじゃないですか」は、「推量」と考えることができそうだ。「明日は雨じゃないですか」などと同様だ。  これに対し、13回も登場する「~じゃないでしょうか」と2つ目の「~じゃないですか」は、どうやら「推量」ではない。具体的には、次の通りだ。 (1) ●記者 緊急事態宣言の6府県解除という重大な決定したにもかかわらず、なぜきょう記者会見を行わなかったのですか。高額の接待を受けた山田(真貴子)内閣広報官の問題が影響したのですか。 ●首相 まず、山田広報官のことは全く関係ありません。現に昨日、国会で答弁されてきたことも事実じゃないでしょうか。 (2) ●記者 記者会見について。対策本部でも国民に時短や感染防止のお願いをしている。まず国民の疑問に答えるべきだと思うが、それでも今日、会見やらずとも国民の協力えられるとお思いか。 ●首相 あのー、今日こうして、「ぶら下がり」会見やってるんじゃないでしょうか。 (3) ●記者 「ぶら下がり」会見では通常5分程度で立ち去っているが、本日はある程度時間をもって記者の質問に答えるのか。 ●首相 必要なことには答えてるんじゃないでしょうか。 (4) ●記者 そもそも、「ぶら下がり」は記者から要請している。本日もし記者から要請なければ、総理は言葉を述べることはなかったということか。 ●首相 あのー、その前に会見の要請があったんじゃないでしょうか。 (5)(経済支援について) ●記者 今後どのようなタイミングでどういったものを考えているのか ●首相 あのー、そうしたものを含めて検討するということじゃないでしょうか。検討する時間必要だと思います。 (6) ●記者 先行解除によって、感染再拡大の懸念や、他の地域への影響についてどのように見ているか。 ●首相 そこはやはり地元の知事の意向ちゅうのも大事にすべきじゃないでしょうか。 (7) ●記者 ワクチンの確保について。ずっと6月末までに全国民分の確保とおっしゃっていたが、その目標は今でも達成可能とお考えか。 ●首相 あの河野(太郎・行政改革担当)大臣が会見でも6月中にはということを言ってるんじゃないでしょうか。明解だったと思います。 (8) ●記者 総務省と農水省、それぞれで利害関係者との会食や接待が問題になっている。他の省庁も含めて総理主導で調査委員会等、第三者をつくるお考えはないか。 ●首相 いずれにしろ、(国家公務員)倫理法で決まってますから、そこの順守というのは、いろんな会議の中でしっかりと徹底をする、そうしたことを言うことは当然のことじゃないでしょうか。 (9) ●記者 現状で問題出ているが、改める必要ないということか。 ●首相 いや徹底して行うという、この倫理法に基づいて順守するということは、やっぱり徹底をすることが大事なんじゃないでしょうか。 (10) ●記者 総務省の接待問題について、接待があれば、便宜を目的とすると考えるのも当然。総理はこの件どう考える? ●首相 あの、ですからそこのためにルールを決めてるんじゃないでしょうか。 (11) ●記者 正式な記者会見とこういった「ぶら下がり」取材の違いは何が違うと考える? ●首相 それは皆さんが考えることじゃないですか。 (12) ●首相 これ、3月7日までまだ日にちがあるわけでありますから、そこに解除できるようにすることに全力を挙げることが大事なことじゃないでしょうか。 (13)(14) ●記者 今度の会見では最後まで質問打ち切りなくお答えいただけるのか。 ●首相 いやあの、私も時間がありますから。でも大体皆さん出尽くしているんじゃないでしょうか。先ほどから同じような質問ばっかりじゃないでしょうか。

なぜ言い切らないのか

 これらは、「それぞれの首長」が「いろんなことを考えてるんじゃないですか」と菅首相が語ったときの「~じゃないですか」とは意味合いが違う。「たぶんそうだろう」という「推量」ではない。  (1)の「現に昨日、国会で答弁されてきたことも事実じゃないでしょうか」は、事実を述べている。一般的には、「現に昨日、国会で答弁しています」と言えばいいところだ。菅首相らしい言い回しなら、「現に昨日、国会で答弁されてきたことも、これ、事実であります」と答えることも考えられるが、そう答えることもしていない。なぜか。  (7)を見ると、ワクチンについて、「大臣が会見でも6月中にはということを言ってるんじゃないでしょうか。明解だったと思います」と語っている。「明解」なのに、なぜ「~じゃないでしょうか」という曖昧な言い方をするのだろう。河野大臣がそう言ったかどうか、確信がもてず、たぶんそう言ったのだろう、と推量で語っているわけではない。「大臣が会見でも6月中にはと申し上げています」と端的に答えればいい場面だ。  はっきりと主張することを避けるときに「~じゃないでしょうか」という言い方をすることはある。たとえば、「会議に準備する飲み物は、お茶とコーヒー、どちらがいいでしょう」と助言を求められて、「お茶がいいんじゃないでしょうか」と答えるような場合だ。「お茶がいいです」と強く主張したいわけではなく、やわらげた言い方をするわけだ。自分が決める責任を負わずに、相手に決定権を投げ返したい意味合いもあるだろう。  しかし上記の(7)では、「明解だったと思います」と、はっきり主張している。なのに、「申し上げています」と端的に答えずに「言ってるんじゃないでしょうか」という言い方をするのは、なぜか。
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抑制されたいら立ちの表れか
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