もっとも、目的に照らしてそぐわない発言だったとしても、
緊急性、
貢献の観点から、許容し得る場合はある。たとえば、「社員第一」を掲げている企業が、
社員に不利益が生ずるリストラを断行せざるを得ないケースだ。
リストラは「社員第一」の目的に反する。しかし、「
深刻な業績悪化という緊急事態に直面し、希望退職を募らなければならなくなった。企業の中長期的な存続のために、希望する方は申し出ていただきたい」という表現であれば、
一時的な緊急対応のために、目的に反する行動について理解を求めやすいと言える。
森氏のケースでも、もし仮に「
限られた時間で、緊急に議論しなければならない状況のなかで、話が長いことが障害だった」という発言であれば、百歩譲って許容し得る人は増えたに違いない。
しかし、この場合でも、「
男性であっても、女性であっても、話が長いことは問題だ」と発言すべきで、
「女性が」と特定することはまったく不適切だ。
目的、緊急性、貢献の観点で発言はコントロールできる
貢献の観点も、目的に照らしてそぐわない発言を許容し得ることがある。たとえば、
新型コロナウイルスのワクチン接種は国民全体の命、健康を守るという目的のための取り組みだ。
しかし、
副作用のリスクという、逆に命や健康を守るということとは
真逆の影響がある可能性も皆無ではない。
これを、「
新型コロナウイルスのワクチンは副作用があるから、命、健康を守るために貢献しない」というように考えるのではなく、「
副作用のリスクはあるが、それを勘案したうえでワクチンを接種し、感染拡大防止に努めることが国民全体の命、健康を守ることに貢献する」というように発言すれば、理解度は高まる。
森氏は、「
新型コロナウイルスがどんな形になろうと、必ずやる」と発言し、国内外から批判されている。仮に、百歩譲って「
感染拡大防止に最大限の取り組みをしながら、いっぽう、経済波及効果への貢献を鑑み、可能な形での実施検討を継続する」と発言していれば、これほど支持を失うことはなかったに違いない。(繰り返すが、女性蔑視発言については、まったく不適切なのはいうまでもない)。
森氏であろうと企業のリーダーであろうと、
日々の発言を目的・緊急性・貢献の観点から見直すことは、失言しないためにも、そしてなによりも
組織を巻き込むためにとても有効だ。組織の目的に適っているか、緊急性、貢献の観点から許容し得るかどうかの確認をしてみることをお勧めする。
【山口博[連載コラム・分解スキル・反復演習が人生を変える]第228回】
<取材・文/山口博>