この快挙に興味を示したのがメキシコであった。メキシコはファイザーとアストラゼネカと契約を交わしていたが、早急に多量のワクチンの入手を希望していた。アルゼンチンがロシアから30万ダースを手にしたということで早速興味をしめした。しかも、アルゼンチンではスプートニクVの情報をスペイ語でもっているということで尚更興味をしめした。メキシコのロペス・オブラドール大統領は早速ブエノスアイレスに調査グループを派遣した。
フェルナンデス大統領はボリビアのエボ・モラレス前大統領がメキシコに亡命するのに橋渡しをした人物でロペス・オブラドール大統領とは親密な関係にある。また、前者はアルゼンチンとメキシコがラテンアメリカにおける基軸になることを望んでいる。フェルナンデス大統領は早速プーチンとロペス・オブラドールの間の橋渡しの役目を買って出た。
1月25日、プーチンとロペス・オブラドール両大統領の電話会談がもたれ、メキシコはロシアから2400万ドーズのワクチンの輸入を決めた。
フェルナンデス大統領はメキシコだけに留まらず、ボリビア、ウルグアイ、ペルーへのスプートニクVの供給のための橋渡しも行った。その彼は1月末にチリを訪問した際にもスプートニクVの資料を持参してイデオロギーは右派系のセバスチアン・ピニェラ大統領に「ウイルスはイデオロギーを持っていない」と述べて同ワクチンを勧めたのである。
ラテンアメリカにおいてアルゼンチン、メキシコ、ボリビアなどにスプートニクVの供給が決まったことはさらにベネズエラ、ニカラグア、キューバへの供給にもつながった。特に米国のワクチンが欧米で市場を占有していることからラテンアメリカ諸国にとってはその輸入量も少量で限定される傾向がある。その隙間を縫ってロシアのワクチンはラテンアメリカへの浸透を果たのである。
しかも、2月に入ってランセットがロシアのワクチンの有効性を91%と発表したことによってスプートニクVへの信頼はラテンアメリカでもより一層確実なものになった。
ここにロシアはスプートニクVを餌にしてラテンアメリカにおける影響力を確実なもの展開させていったのである。その先導役となったのがアルゼンチンのフェルナンデス大統領であった。
中国製のシノバックとシノファームのワクチンもラテンアメリカへの供給が決まっているが、マイアミの電子紙『PanamPost』(2月7日付)によると、フェルナンデス大統領が「スプートニクVは9ドル50セントで購入できるが、中国製はどちらも30ドルだ」と言って拒否していると報じた。別の情報ではスプートニクVは1ドーズ10ドルともいわれている。いずれにせよ、現状では中国製のワクチンは割高になっているという評判で、それがラテンアメリカでも説得力に欠けているようだ。
<文/白石和幸>