日本は過去に、国債を大量に発行して経済危機を乗り越えた
日本の近代史を振り返ってみても、国債を大量に発行し、経済危機を乗り越えた実例があると井上氏は言う。
「1929年にアメリカから世界大恐慌が始まりました。そのあおりを受けて、日本も『昭和恐慌』と言われる経済的なピンチに陥ったのです。それを救ったのが高橋是清です。
1931年、当時の犬養毅首相に請われて大蔵大臣になった高橋は、日本の景気を良くするために貨幣のばらまきのようなことをしました。国債を政府が発行して日銀に買わせ、それを財源として支出に充てたのです。それによって景気がものすごく良くなりました。
高橋財政下での経済成長率は6.1%と、高度経済成長期に匹敵する勢いでした。ただし、高橋財政によってデフレ不況は払拭されましたが、政府支出が国民の生活の豊かさとは関係ないほうにどんどん使われてしまいました。そちらにリソースが取られていたため、経済は回復したものの、戦時中の人々の生活は困難なものとなってしまったのです」
井上氏は
「国債の日銀直接引き受けという、今では“禁じ手”とされていることが健全に使われるのならば、むしろ国を豊かにするために活用することができると思います」と語る。
国債を日銀が直接引き受けることは、現状では財政法5条で禁止されているものの、同法では
「特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない」との例外規定がある。
毎月10万円、広く継続的な給付で日本経済を立て直せ
国債を財源として、国民全体への給付を継続的に行うことが日本経済の建て直しにつながる――。そう主張し続けてきたのは、「日本経済復活の会」会長で日本ベーシックインカム学会理事の小野盛司氏だ。小野氏は、井上准教授との共著
『毎年120万円を配れば日本が幸せになる』で、現金給付が広く継続的に行われた場合の日本経済への影響のシミュレーションを詳しくまとめている。
「私の提案は
『毎月10万円、年間で120万円の給付をしばらくやってみよう』というものです。一切の先入観を排して科学的な分析を行うため、日経新聞社が開発したNEEDS日本経済モデルを使用し、現金給付を広く行った場合の日本経済への影響を計算してみました。
その結果、
もし現金給付が継続的に行われると、GDPや雇用、法人の通常利益などが大幅に改善する一方で、インフレや金利の上昇はほとんどないという素晴らしい結果を得られました。コロナ禍によって未曾有の危機に直面している日本の経済を立て直すためには、現金給付は絶対に必要です」(小野氏)
小野氏は
「もう選択ミスは許されません」と強調する。
「バブル崩壊やリーマンショックなどの経済危機に見舞われながらも、
『国の借金を増やしてはダメだ』『インフレが怖い』などと、財務省の言うことを疑わずに経済政策が行われてきた結果、『失われた20年』と言われる日本経済の停滞がもう30年になろうとしています。
いま現金給付を行わなければ、日本人はますます貧しくなるでしょう」
ピンチはチャンスだとも言える。今こそ思い切った経済政策の大転換が必要なのかもしれない。
<文/志葉玲>