■「何を買うかより、誰から買うかの時代」
斬新なことを言っているようだが、ちょっとよく分からない。
売る側からすれば「この人(店)から買おう」と思わせることが肝要なのはいつの時代も不変だし、買う側も同じ物を同じ値段で買えるとしたら、態度の悪い店より笑顔で対応してくれる店で買うに決まっている。
この言葉が通用するのは、商品の質や値段が消費者の許容範囲であった場合に限られることを忘れてはいけない。誰からだろうがどこからだろうが、自分の条件に合った物を自分で判断して買えるのが健全な消費社会だ。
ネット上で化粧品やサプリなどを個人販売しているセミナー主宰者などを想像してみるといい。市場に出回っている物の方が値段も安く質もいいのに、それらを視界から外させ、「この人から買おう」と思わせるだけの話術を目の前のカモにたっぷりと浴びせていることだろう。
たいしたことのない品物に「誰々さんが売っているから」という金メッキを自ら付けさせるのは「教祖」が「信者」に買わせるテクニックだ。
前述の芸人も、「貯まった信用」を引き合いに出し、「誰にお金を落とすかを考えるようになる」と述べていた。誰かを応援するためにお金を出すのならそうかもしれないが、物を購入する時の「誰から」はその商品自体を吟味する消費者の目を曇らせはしないか。
ネット上での声が大きく、虚像だろうが自己プロデュースに長けた個人にお金が集まる時代。何かを売りたい人がただ「そういう時代だ」と大衆に植え付けたいのだとしたら注意が必要だ。
■「迷ったらワクワクする方を選ぼう」
なぜ
合理的に考えることを放棄させるのかといつも思うこの言葉。
ワクワクするというのは感情だ。物事を感情で決められるのなら思考力なんて必要ない。だからこれを使うのは、考え抜いて比較してそれでも選べなかった場合だけの話ではないだろうか。
例えば旅行や遊びに行く場所の選択でこうした考え方をするのならいいだろうが、大金が動く場合や、人生の岐路でこんなアドバイスをされてもただの無責任で何の役にも立たない。
この言葉を誰かから投げかけられている場面も気にして欲しい。「ワクワクするのはどっち?」と聞いた人は、おそらくあなたの心を踊らせるようなことを提示してから選択を迫っているはず。
そう、まさにマルチ商法の勧誘などが当てはまる。論理的思考ではなく感情で何かを決めさせようとする連中に隙を見せてはいけない。
■「批判は嫉妬の表れ」
最後はこの言葉を紹介したい。本当に嫉妬による中傷などに向けてではなく、真っ当な批判に対してのスタンスの話だ。
自称他称問わずどんなインフルエンサーだろうが、これを言った人が批判的な論評に対してしっかり反論できていた例を見たことがない。
自分が発信したことに何か問題があったのかを顧みようともせず、「嫉妬しているだけだから相手にしない」などと論点をずらす人物は信用に値しない。そんなことを言うぐらいなら無視していた方がまだマシで、有り体に言えばただの負け惜しみだ。
もしもその批判が間違っているのなら、理路整然と反論した方が得なのに、何かやましいことでもあるのかと思われても仕方がない。
自分は嫉妬される存在なのだ、と「信者」に見栄を張りたいだけではないか。
世の中には騙す人と騙される人がいる。誰でもネット上で革新的なことを言いながら商売ができる今、「信者」となってカモにされる人も増えている。
ネット上での甘い言葉や力強い助言は、それを言うことによる利があるからではないかと疑ってから実践しても遅くはない。
自己啓発的な言葉ほど鵜呑みにしてはいけないのだ。
<文/黒猫ドラネコ>