Qアノンだけじゃない! メジャーリーグにも蔓延る「陰謀論」

球界を揺るがすセクハラスキャンダル

 もう1つは、球界を揺るがせたセクハラスキャンダルの中で起こった。  それは、昨年12月上旬に就任したばかりのニューヨーク・メッツのゼネラルマネジャー(GM)ジャレッド・ポーター氏(41)が、外国人女性レポーターにわいせつ画像を添付したテキストメッセージなどを送っていたことが発覚したことから始まった。スクープしたのは米大手スポーツテレビ局ESPNの電子版で、MLB担当エース記者のジェフ・パッサン氏とスポーツ関係の調査報道記者として活躍するミナ・キム氏による連名記事だった。  それによるとポーター氏は、シカゴ・カブスのスカウトをしていた2016年、ヤンキースタジアムのエレベーターで偶然知り合った女性リポーターと名刺を交換した後、何十通ものメッセージを送っており、その中にはポーター氏本人のものと思われる裸の局部など、複数のわいせつ画像が含まれていた。メッセージには、しつこく誘う言葉や同氏が宿泊中のホテルに呼び出そうとする言葉が綴られていた。記事にはメッセージのやり取りが表示されたスマートフォンの画面映像や、くだんのわいせつ画像が掲載され、セクハラ被害を受けた女性レポーターの談話も引用。具体的で生々しい内容だった。  この女性レポーターは、セクハラ被害を受けた後に母国に戻り、メディアの仕事はすでに辞めているという。ポーター氏は女性レポーターから法的措置を取られてはいないが、スキャンダルが大々的に報じられた翌日に球団から解任され、現在はMLB機構から調査を受けている。米スポーツメディアでは、このスキャンダルは氷山の一角でありスポーツ界では女性へのハラスメントが当たり前のように起こっていることが指摘され、問題提起の流れが起こった。

陰謀論の跋扈から透けて見えるもの

 ところがそんな中で「スキャンダル報道は陰謀ではないか」という発言が、ニューヨークのスポーツラジオ局の番組で飛び出した。ESPNのキム記者はポーター氏のセクハラスキャンダルを2017年から取材していたそうだが、そのスクープを4年間温存し、同氏がGMという責任ある役職に就いた今になって報道したのは裏に何かある、陰謀ではないのかというのだ。ESPN側は当然のことながら「取材源である人物から公にしていいという許可が出なければ報道はできない。ゴーサインが出たのが今だった」と反論し、騒動に発展している。  セクハラ報道に対する陰謀論からわかるのは、米国には多かれ少なかれ、ポーター氏の行為は何も問題がないと考えている男性がいるということだ。己の主義主張や価値観、利益に反することを決して受け入れようとしない身勝手さや利己主義がそこから透けてみえる。それが、陰謀論が蔓延する分断された社会の本質的問題の1つであることは確かだと思う。 <取材・文/水次祥子>
みずつぎしょうこ●ニューヨーク大学でジャーナリズムを学び、現在もニューヨークを拠点に取材執筆活動を行う。主な著書に『格下婚のススメ』(CCCメディアハウス)、『シンデレラは40歳。~アラフォー世代の結婚の選択~』(扶桑社文庫)、『野茂、イチローはメジャーで何を見たか』(アドレナライズ)など。(「水次祥子official site」) Twitter ID:@mizutsugi
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