わたしはここで、「夜の街」の制限を解禁しろと訴えたいのではありません。そうではなくて、
「夜の街」を制限するという政策は、けっして軽くない、重い決定だということを言いたいのです。それだけ重い決定をして、
人々に行動制限を要請するのならば、政府や自治体にもそれに見合った対応と説明が求められるということです。
厚労省の対応は、失敗だらけです。いくつもの病院で
院内感染を引き起こし、感染者数を積み上げています。医療機関の防衛が問題の焦点になることは、諸外国の事例を見ても充分に予見できたことですが、厚労省も医師会もまったく無防備であったために、医療体制を機能不全に陥らせてしまいました。これは
大失敗です。
たとえれば、防火のプロである消防署がごうごうと燃えて周辺民家まで延焼させてしまっているという状態です。そんな大失態をおかした消防署長が、「火の使用を控えましょう」などと呼びかけても、どの口でそれを言うのかという話なのです。
誤解のないように繰り返しますが、わたしは、
外出・会食の制限はなされるべきだと考えています。わたしは、ノーマスクデモの支持者ではありません。かれらが取るような行動が事態を悪化させることは火を見るよりあきらかです。
ノーマスクデモは、非科学的で不合理な行動の典型的な事例だといえます。
ただし、
かれらだけを断罪するのはフェアでない。ノーマスクデモを断罪するのであれば、それと同じだけの強さで、
厚労省の失敗と医師会の失態を断罪しなければならないと思うのです。厚労省にも、医師会にも、それぞれの言い分があるだろうと思います。しかしそれは主観的な合理性をのべたものにすぎないのであって、客観的に合理的な判断ではなかったのですから、ノーマスクデモの人びとと大きく変わるものではありません。
社会学が考察の対象にしているのは、こういうことです。だれもが主観的に合理的な判断をくだして行動しながら、客観的に不合理な行動をしてしまっていることがある、ということです。
ノーマスクデモの集団が奇異に映るのであれば、同様に、政策決定を担う人びとの行動もじゅうぶんに奇異なものでありうるのです。