フリー記者を排除し、事前通告された質問と再質問禁止。これが罷り通るのが日本の政治報道の現実

フリー記者を排除して「平河クラブ」記者限定の会見を行い、部屋から出てきた安倍前首相(写真/横田一)

フリー記者を排除して「平河クラブ」記者限定の会見を行い、部屋から出てきた安倍前首相(写真/横田一)

 前回、1月7日の菅義偉首相による会見を例に、その「茶番劇」ぶりを解説した。今回はさらにその異常性を指摘していきたい。

非記者クラブ勢を排除した、安倍「桜を見る会」疑惑会見

 安倍晋三衆院議員(前首相)が昨年12月24日に急遽開催した記者会見も、海外では記者会見と呼べる内容ではなかった。「桜を見る会」事件で、東京地検特捜部が同日、安倍氏を不起訴(嫌疑不十分)処分とし、配川博之公設第一秘書を略式起訴。これを受けて、東京簡裁が罰金100万円の略式命令を出した。  これについての会見は衆院第一議員会館のいちばん狭い会議室で開かれ、参加できる記者は自民党記者クラブ(正式名・平河クラブ)の常勤社各社1人(16人)と非常勤社8人(抽選)の計24人に限定された。  つまり、安倍事務所と平河クラブの談合での会見だったのだ。安倍事務所は会見の案内文をクラブに送っている。その内容は「クラブ以外の記者を入れるな」という命令だった。
安倍前首相の会見に参加できるのは、記者クラブの常勤社・非常勤社の記者24人に限定された

安倍前首相の会見に参加できるのは、記者クラブの常勤社・非常勤社の記者24人に限定された

 会見の司会は、安倍第二次政権で首相会見を司会していた長谷川榮一氏(安倍退任で内閣広報官を退職、元経産官僚)が務めた。常勤社の京都新聞の記者が「平河クラブだけではなく、もっと開かれた広い会場で会見をすべきだったのでは」と聞いたが、安倍氏は答えなかった。    長谷川氏は官邸での会見と同じように「一人一問」と制限をつけて、記者を指名して質疑応答を仕切った。記者の追及は甘かった。長谷川氏が「会議室は7時まで借りている」と何度も言って、午後7時5分に会見は終わった。  一議員の会見を、クラブ以外の記者を排除する閉鎖的な条件で実施することを許した平河クラブの責任は重い。記者クラブ制度がある限り、まともな記者会見はできないことがまた明らかになった。

質問の事前通告や再質問自粛こそ「報道倫理違反」

 ここで、官邸での首相の記者会見の仕組みを見てみよう。官邸報道室は1月7日の会見前、官邸ウェブサイトに「新型コロナウイルス感染症に関する菅内閣総理大臣記者会見への参加について」と題した通知文を載せている。こうした通知文が載ったのは菅政権になって初めてのことだ。  通知文にあるように、参加資格があるのは①日本専門新聞協会会員社に所属する記者(国会記者記章の保持者)②日本雑誌協会会員社に所属する記者(国会記者記章の保持者)③外務省が発行する外国記者登録証の保持者④日本インターネット報道協会法人会員社に所属する記者で、十分な活動実績・実態を有する者⑤上記1、2、4の企業又は日本新聞協会加盟社が発行する媒体に署名記事等を提供し、十分な活動実績・実態を有する者――に限られる。  参加希望者は、事前登録及び入邸登録のための手続きが必要となる。④⑤に該当し、2010年3月26日以降の首相会見に参加している者は毎回、報道室へ申込票を提出しなければならない。通知文の「留意事項」にはこう書いてある。 <いわゆる3つの「密」を避けるため、会見室においてはペン記者は各社1ペンでお願いします。また、ペン記者は事前登録を行った方のうち抽選に当選した方のみ御参加いただきます。1月4日の会見で当選した社・方以外の社・方を優先します。(略)参加者は、報道倫理を厳守するとともに、官邸職員の指示に従ってください。官邸職員の指示に従わない場合等には、退出していただくこともあります>  ここでいう「ペン」はカメラマンではない普通の記者という意味だ。官邸の側が記者に「報道倫理を厳守する」ことを要請するというのには笑ってしまう。記者が会見前に取材対象者に質問事項を伝えたり、再質問を自粛したりすることこそ報道倫理違反と言えるだろう。
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安倍・菅政権で一層進むフリー記者排除
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