カジノ住民投票を否決した、横浜市会と林市長の横暴

スケジュール優先で事業者公募を始める危険性(長期契約リスクと損害賠償責任)

 最後に、横浜市民に今後数十年にわたって暗い影を落とすであろう恐ろしいリスクを井上さくら市議は指摘している。以下、その内容を抜粋して紹介する。(下記の動画リンクの10分04秒〜) 井上さくら: 「先ほど来、民意を測るには、これはこの住民投票条例を否決をしようと呼び掛けた議員の方々もおっしゃっていますけれども、今は材料がない区域整備計画ができてからだということをおっしゃっています。しかし、それでは遅いんだということを私なりに少しお話させていただきます。  今の林市長や副市長たちの何よりもスケジュールありきの、この姿勢から考えられるのは、この住民投票条例議案が今日議会で否決されれば、次はIR事業者の公募を時間をおかずに開始するということが予定されていると思われます。事業者公募を開始するということは、これまでの横浜市が自分たちの中で検討していますという段階から明らかに一線を画した新たな段階に入るということです。それは横浜市として条件や選考基準を示し、その条件のもとにIRという巨大事業の共同事業者として長期にわたる巨大な契約を交わす。その前提として事業者たちに投資を行わせるということになるからです。このIRカジノ事業者のプロポーザル。1兆円規模の開発ですから、このプロポーザルのプランを出すだけでも億単位のコストを事業者たちにかけさせることになり、走り出させるということになります。民間事業者たちに億単位の投資をスタートさせるということは、当然横浜市もそれに見合った責任を負うことになる対外的な責務を負うことになるということです。  先月この事業者公募の基本資料となる実施方針と募集要項案の骨子が常任委員会で示されました。この文書により、事業期間は35年。先ほどから、私たちはいないだろうと。議場にいないどころか、この世にだって居ないかもしれない。その長い35年という長期にわたること。また、事業者として選定されたものと横浜市は選定されれば速やかに基本協定を締結しなければならない。つまり契約関係に入るということが書かれています。  さらに国に選定された以降のこととして、カジノIRを共同で運営する際のリスク分担、事業の継続が困難となった場合の措置なども記載されています。この事業の継続が困難となった場合の一つに、市による区域整備計画の認定更新不申請があります。IRカジノ事業者、区域整備計画の認定。これは国に認定されたとしても10年間という期限付きの許可であるため事業者と交わす35年契約の途中で必ず先に期限を迎えます。その時には国に更新を申請し、認められなければ事業を継続することができなくなります。更新申請の際には、改めて市議会の議決を得る必要があります。もしその時に横浜市が方針を変更し、もうカジノは要らないという市長になっていたり、あるいはその時の市議会がこの計画ではダメだと否決をする。すると国からの認定も無くなり、IRとしての事業はそこでできなくなります。ところが、こうした更新の不申請はこの公募、実施計画によると、なんと5年前に事業者に対して通知することとされ、なおかつ事業が止まることによる損害を横浜市がIR事業者に対して賠償をすると。損害賠償を横浜市側が行うという規定も盛り込まれているんですね。  この規定は将来にわたる横浜市政を、市議会の判断を、市民を縛ることに繋がります。こういう重大な規定を盛り込んだ事業者公募を民意を問うことなく、市民合意なく開始することは許されません。  区域整備計画を策定するまで待たなければというのは、既成事実をとにかく積み上げて、この申請に駆け込んでしまおうという、そういう話に過ぎないと思います。』  井上市議の討論はここまでにして、内容について解説していく。井上さくら市議が懸念しているIR事業者との契約規定に関するリスクを時系列で図解すると下図のようになる。 契約規定  要点を以下に列挙する。 ・IR事業者との契約期間(35年間)> 国の認定期間(10年間) であることから、必ず先に国の認定期限が訪れる ・だが、事業者に対する不申請の通知期限は5年も前に設定されている。市長や議会の任期が4年であることを考慮すると、5年前に通知することはかなりハードルが高い。 ・しかも、契約期間は35年間と長期にわたるのに、「事業停止による損害賠償は横浜市」と明記されてしまっている  つまり、この規定を踏まえると、一度でもIR事業者と契約してしまえば恐ろしいことに、首長・議会・市民のいかなる立場の者がカジノを無くそうと考えても、カジノを無くすことはもはや不可能だろう。というか、今後、首長や議会がどのような人物に入れ替わってもカジノを存続できるようにあえてこうした規定にしたのであろう。  このカラクリを承知の上で、自民党や公明党の市議たちは「今は区域整備計画の詳細が示されてないので、市民が正しい判断を下すことはできない」という詭弁を用いているのだろう。井上さくら市議の討論前、住民投票条例の否決に賛成(=住民投票は実施させないべき)の立場で討論した全2名の市議が具体的にどのような発言をしていたのか討論内容から抜粋して、以下に紹介する。 自民党・黒川勝 市議(横浜市金沢区 選出) 「なぜ今、施設の詳細が示されないのに賛否を問う住民投票を行うのでしょうか。まさかとは思いますが、素晴らしいIR施設の提案が提出されると賛成者が増えてしまうと思っているのでしょうか! 横浜の依存症対策の詳細が発表されると市民の不安は減るかもしれません。その前に住民投票で潰してしまおうというのでしょうか!」 公明党・安西英俊市議(横浜市港南区 選出) 「現状では、区域整備計画が示されていないことや代替案が無い中で賛成や反対を判断することは困難であると考えています。」  黒川市議に至っては、こちらが恥ずかしくなるほど実態と乖離した内容を述べており、その厚顔無恥ぶりには逆に感心する。そもそも、世界的なパンデミックによって大規模集客型のIRという事業の先行きが全く不透明な中、35年契約、1兆円規模の投資となる事業になぜここまで楽観的でいられるのか。この黒川市議はカジノを強行するためにあえて挑発的な言動をしたのか、もしくは本当に何も考えていないのではと心配になる。この黒川市議の挑発的な発言に対しては、傍聴していた市民からも即座に多くの非難の声があがっていた。  4点に分けて解説してきた横浜市会の異常さは以上である。  そして、これだけの問題点や矛盾を明らかにした井上さくら市議の討論の直後、記事冒頭で伝えた通り「横浜市におけるカジノを含む統合型リゾート施設(IR)誘致についての住民投票に関する条例の制定」は横浜市会で否決された。横浜市会で過半数の議席を占める自民・公明の議員全員が否決にまわったからだ。  この出来事は、2019年9月に可決されたカジノ補正予算案を思い起こさせる。この際も、審議を通して市長や横浜市が掲げたカジノ誘致の根拠が次々と崩壊していったにもかかわらず、最後は過半数を占める自民・公明の賛成によって、問題と矛盾だらけのカジノ補正予算案は可決されてしまった。 *その際の採決直前の井上さくら市議の反対討論は下記の動画リンク参照  これらの出来事を踏まえて言えることとして、横浜市民としても大変残念であるが横浜市の議会制民主主義はもはや機能不全に陥っている。自民・公明の横浜市議は「横浜は議会制民主主義が健全に機能しており、選挙で選ばれた代表である議員が正しく判断する」という旨の主張を繰り返しているが、実態は真逆である。選挙で過半数の議席を得たことを口実に、市民の将来的な負担を無視し、問題だらけの政策を強引に進めている。国会で起きていることと同じことが菅総理のお膝元である横浜市会でも起きてしまっている。 <文/犬飼淳>
TwitterID/@jun21101016 いぬかいじゅん●サラリーマンとして勤務する傍ら、自身のnoteで政治に関するさまざまな論考を発表。党首討論での安倍首相の答弁を色付きでわかりやすく分析した「信号無視話法」などがSNSで話題に。noteのサークルでは読者からのフィードバックや分析のリクエストを受け付け、読者との交流を図っている。また、日英仏3ヶ国語のYouTubeチャンネル(日本語版/ 英語版/ 仏語版)で国会答弁の視覚化を全世界に発信している。
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