追悼、デヴィッド・グレーバー。誰もが考えていることを膨らませる力。<酒井隆史×矢部史郎>

「おなじことを考えてる?」誰でも考えることの含意を膨らます

矢部 僕なんかがグレーバーに接して「友人」とか「仲間」という感情を覚えてしまうのは、「おまえは俺か」という感覚を持たせてしまうところにもその理由がある。「おなじことを考えてる?」って。 酒井 自分の例になるけど、2004年に出した『暴力の哲学』(河出書房新社)とグレーバーの理論との意図しない共通性があって。これは僕がグレーバーを知る前のものだし、運動のなかでアナキズムが優勢になっている、というのもほとんど自覚がなかったころ。  ところが、この本を文庫化(河出文庫)するというので読み直すと、発想が、自分の場合は自分の経験と、(イタリアでの「68年」の運動にルーツを持つ、反権威主義的で自律性を重視する左派の運動である)アウトノミア系の理論家たちや、ドゥルーズ=ガタリとかその辺から来てるんだけど、発想がグレーバーそのままだというところもあったから、正直驚いた。グレーバーと自分がおなじことを考えていて、しかもその内容にこんなにパンチ力があったのかと。  まあ、グレーバーふくめ、1968年以降の諸運動の流れのなかで、それ以降の世代に、アウトノミアがマルキシズムとアナキズムの媒介者になって影響を与えていたということでもあるだろうけど。ただ、グレーバーの場合、その含意の広げ方がぜんぜんちがう。僕らも考えていたけれども、それほど自信があったわけでもないし、その含意の大きさをあまりよく理解していなかったような部分がたくさんある。それはアウトノミアをふくめ、マルキシズムではあまり問題にされないようなところ。それを独特のしかたで、問題にするんだよね。もちろん、それは運動の作風としての力点のちがいなんだなということもだんだんわかってきたけど。  自分はしかし、2004年の時点でたぶん、そうした諸要素をアナキズムと認識していたわけではなかった。自覚としては異端派マルキシズム。アナキズムは当時、日本の運動圏にいるとあまり印象はよくなかったしね。もちろん、水田ふうさんのようなひとの存在は知っていたけど、みえる範囲でいえば、そのマチズモに辟易してたから。矢部くんたちはアナキズム、って当時からいってたよね? 矢部 自分たちは意識的にアナキスト、って呼ぶようにはしていたかな。でも、実際には「アウトノミア」というほうが多かった。理論的にはアウトノミアを踏襲する。

「小文字のアナキズム」とノンセクト・ラディカル

酒井 そのあたりの厳密な区別はどうでもよかった。日本でグレーバーのいう「小文字のアナキズム」になにが近いかというと、アナキズムというよりは(無党派の左派)ノンセクト・ラディカルだよね。これはなにかの「主義」とか世界認識というより組織原理であって、むしろ多様な「主義」や思想性を、作風として統合していくような考えだよね。  具体的には、各人の思想体系、倫理的原則ふくめ、その多種多様なありようを尊重する、出入り自由、「倫理主義」「現場主義」をできるかぎり排して運動にヒエラルキーを持ち込まないようにする、などなど。  自分としては、アナキズムであろうとマルキシズムであろうとどうでもいいといえばどうでもいい。でもマルキシズムのなかに可能性があると昔も今もおもっているし、マルキシズムも大きな意味でいえばアナキズムの系統のなかにあるといえないことはないとおもう。  もちろん、マルキシズムをドイツ的な国家主義の系譜のなかに立てて、フランス的なアナキズムとは別個のものとする、というひともいるだろうけど、グレーバーからすれば、アナキズムとは基本的に「人類普遍の原理」であって、いたるところに見出されるものなんだから、ヨーロッパにルーツを求めて、というのは間違っているというだろう。  さっきの話とつなげると、これは要するに、自分たちが価値があるとおもってやっていて、重大だともおもっているんだけど、周りからはそれほどいわれているわけではない、だから自分たちも自信が十分にあるわけでもない、だけど重大だろうからやっていたことを、「それは重大なんだ」といってくれて、しかも人類史のスケールでそのことを語った。それはとても大きかったよね。そういう意味での連帯感、共鳴というのは自分にとって重大なものがある。  2000年代後半からの、グレーバーを読んでからのもの、それは『通天閣』もそうなんだけど、ほかにもたとえば(詩人・評論家の)谷川雁について書いたものなど、グレーバーの影響がすごく強い。あとは奴隷制、奴隷と自由の問題について考えるときにはいつもグレーバーを意識して、それを消化しながらものを考える。
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「罵らない」政治、「予示的政治」
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