『Zeros』Declan McKenna
一般的に大きなニュースにはなっていないが、実は
夏ごろからイギリスではロックが復活傾向にあり、実績のなかった
若手アーティストが続々ナショナル・チャートの上位にランクインした。
この22歳の
デクラン・マッケンナもそのひとり。アイドル的でさえあった10代のデビュー時のあどけなさから一転、
デヴィッド・ボウイの華麗なるロックンロール・センスを巧みに継承。一躍、シーンの牽引役有力候補に躍り出た。
『Letter To You』Bruce Springsteen
若いアーティストだけが今年の主役ではない。
ボブ・ディラン、
ポール・マッカートニーが80歳近くで快作を発表するなか、71歳の
スプリングスティーンもなじみの
Eストリート・バンドと共に全盛期とたがわぬロックンロールで気を吐いた。
コロナで疎遠になり、なかには亡くなった人もいる今の世の聞き手に精一杯の真心を届け、「
まだくたばらねえ」と強く奮い立つ。そんな彼の歌は、
ジョー・バイデンの大統領選での勝利宣言のスピーチ前にも象徴的に流れた。
『After Hours』The Weeknd
2020年の
世界でもっともヒットした曲といえば、
ザ・ウィーケンドの「
Blinding Lights」。
’80年代リバイバルのなかでもなかなか取り上げられなかった
’85年以降のバブリーな時代だが、『
マイアミ・バイス』風の
シンセサイザーと色鮮やかな
肩パッドのスーツと共に鮮やかに蘇った。
曲そのものが世に出たのは2019年の末頃だったが、この曲の持つ華やかさと不穏な匂い。これが、外で
パッと気分を晴らしたくてもできない人々の気持ちを表しているかのようだった。
『Rumours』Fleetwood Mac
2020年に話題を呼んだのは新作アルバムだけではなかった。’70年代に
全米チャート31週一位という、当時の大記録を作った稀代のバンド、
フリートウッド・マック。そんな彼らの’77年のモンスター・アルバム、『
噂』も
42年ぶりの再ヒットを記録した。
その原動力となったのは、売れた当時を全く知らない、動画アプリ「
TikTok」を使う
若者ユーザーたちだった。
きっかけさえあれば音楽が時を越えて共有されることが可能なことを証明した。
『狂(KLUE)』GEZAN
そして最後の一枚は日本から。
大阪のインディ・シーンが誇るカリスマ・バンド、
GEZANが一躍、
現在の日本に不可欠なバンドとなった傑作。
ダブや
ポストパンクを実験的に進化させた
サイケデリックなサウンドも画期的だが、それを背景にして歌われる
マヒトゥー・ザ・ピーポーの、
閉鎖的なネット社会が産み落とした冷笑的な極右礼賛的社会に遠慮なしに一石を投じる鋭い社会描写と根源の部分に溢れる人類愛にこそ耳を傾けたい。
<取材・文/沢田太陽>