日本で繰り返されるトランプ応援デモの主催者・参加者はどんな人々なのか

新中国連邦という新勢力

「トランプ米大統領支援集会・デモ実行委員会」によるデモで新中国連邦の旗を掲げる一群(11月29日)

「トランプ米大統領支援集会・デモ実行委員会」によるデモで新中国連邦の旗を掲げる一群(11月29日)

 デモ隊の中に、青地に金の星をたくさんあしらった見慣れない旗を持つ一群があった。「新中国連邦」という団体の旗だという。  新中国連邦は中国からアメリカに亡命した実業家・郭文貴氏とトランプ大統領の元側近(元首席戦略官)のスティーブ・バノン氏が呼びかけて設立された団体。中国共産党による専制支配を打倒し新たな国家を建設することを目指しているようだ。公式サイトには、日本にも下部組織があることが書かれている。  このデモのシュプレヒコールが「反中国共産党」を全面に押し出していることや、中国系の参加者が多かったのは、もしかしたら新中国連邦の関係かもしれない。  デモが終着点の丸の内に着くと、参加者たちがアメリカ国旗やプラカードなどを主催者に返却して解散。この光景から、大規模なデモ隊が掲げていた旗、プラカード、のぼり、横断幕の多くは、主催者が用意して参加者に貸し出していたものだとわかる。  主催団体は、「トランプ米大統領支援集会・デモ実行委員会」。新中国連邦との関係はわからないが、新中国連邦の旗は主催者による回収場所から少し離れた一角で回収されていた。しかしデモ中、先導車の運転手は新中国連邦の旗を片手に運転をしていた。主催団体とそれなりに近いところに、新中国連邦が関わっていることは間違いなさそうだ。
新中国連邦の旗を振りながら先導車を運転するドライバー(11月29日)

新中国連邦の旗を振りながら先導車を運転するドライバー(11月29日)

 「トランプ米大統領支援集会・デモ実行委員会」も幸福の科学信者たちと同様に、バイデン氏の当選が事実上確実となった後の12月20日にも大阪でデモ行進を行っている。こちらは残念ながら取材に行くことができなかったが、YouTubeなどで見る限り、新中国連邦の旗は見当たらなかった。代わりに、東京でのデモに比べて韓国旗や内モンゴル旗が多かった。  シュプレヒコールは東京でのデモと同じ。トランプ氏支持と同時に、反中国共産党を前面に出したものだった。  

QアノンならぬJアノン?

 アメリカでは、アメリカ政府が悪魔崇拝者や小児性愛者の秘密結社によって支配されており、その勢力と戦っているのがトランプ大統領であるとする陰謀論者たちがおり、その陰謀論は「Qアノン」と呼ばれる。  日本では最近、Twitter上などで、日本でアメリカ大統領戦の不正などを主張するトランプ支持者などを「Jアノン」と呼ぶ人々もいる。本記事の幸福の科学の部分で触れた街頭演説の内容にも「ディープステート(影の政府)と戦うトランプ大統領」というたぐいの主張が見られた。アメリカ大統領選挙の結果を不正によるものとする主張も陰謀論的に思える。
安倍支持を表明する人も

「トランプ米大統領支援集会・デモ実行委員会」によるデモでは、安倍晋三前首相への支持を表明する人も(11月29日)

 ただ、Jアノンと評される日本のトランプ応援デモでは、アメリカ国内の情勢にまつわる陰謀論より「反中国共産党」という共通点の方が強い印象だ。幸福の科学信者のトランプ応援デモは直接中国共産党批判をする内容ではなかったが、幸福の科学や幸福実現党はもともと中国や北朝鮮の脅威を理由に日本の国防強化を謳い核武装も主張してきた。  そしてJアノンはやたらと顔ぶれが多様だ。幸福の科学信者もいれば統一教会分派がらみの団体もいる。日本のヘイトスピーチ活動家もいた。外国人とおぼしき参加者の割合が高いデモや集会もある。  Qアノンはアメリカの極右勢力の一つとして扱われるが、Jアノンは必ずしも「日本のナショナリズム」とは限らない。「反中国共産党」という一致点に、様々な立場の人々が集っている(もしかしたら本家アメリカのQアノンも実態は似たようなものだったりするのかもしれないが)。  加えて、幸福の科学信者のデモに関して言えば、バイデン氏の当選が事実上確定した後の方が参加者数が多かった。「トランプ米大統領支援集会・デモ実行委員会」によるデモについても同様だったかのようなTwitter投稿が、参加者によってなされていた。様々な団体・勢力間の交流や便乗が進んでいるのではないか。  幸福の科学信者のデモは、米連邦議会で選挙人による投票結果の承認が行われる1月6日にも都内で開催されるという。新中国連邦も、今年できたばかりの団体だけに、様々な活動や連携を模索していくだろう。  Jアノン的な運動が、バイデン氏が大統領に就任した後にも尾を引くか、あるいは混沌とした顔ぶれのまま「反中国共産党運動」として継続しそうな気配も感じる。幸福の科学信者の演説では、日本の選挙でも不正が行われているとする「ムサシ陰謀論」にも言及されていた。Jアノンが日本版陰謀論と合体してしまう可能性も頭をよぎる。  むしろバイデン氏が大統領に就任し大統領選が決着した後の方が、Jアノンはややこしい「発展」を見せるのかもしれない。
三浦春馬さんとトランプ大統領との間に、一体何があったというのか

三浦春馬さんとトランプ大統領との間に、一体何があったというのか

<取材・文・撮影/藤倉善郎>
ふじくらよしろう●やや日刊カルト新聞総裁兼刑事被告人 Twitter ID:@daily_cult4。1974年、東京生まれ。北海道大学文学部中退。在学中から「北海道大学新聞会」で自己啓発セミナーを取材し、中退後、東京でフリーライターとしてカルト問題のほか、チベット問題やチェルノブイリ・福島第一両原発事故の現場を取材。ライター活動と並行して2009年からニュースサイト「やや日刊カルト新聞」(記者9名)を開設し、主筆として活動。著書に『「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島社新書)
1
2
3
4
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会