しかし、現代科学の多くは
観相学的な考えやその実証可能性に否定的な見解を示しています(トドロフ, 2019)。妥当な実験デザインを作る困難さと相まって、ある顔の形や顔の各パーツの相対的位置関係が、人物の特性を示す理由を適切に示せていないと考えています。
特定の眉・目・口の位置関係が人物の攻撃性を示すと、実験参加者が主観的に感じる、あるいはAIがその関係を抽出するのは、なぜか。特定の顔パーツの位置関係を持って生まれると攻撃的な印象に映り、周りの人々が抱くそうした印象がその人物の行動を攻撃的にしてしまうのか、日々、攻撃的な行動をしているからそうした顔になるのか、あるいは、その両方か。とても興味深い関係なのですが、科学的にはまだよくわかっていないようです(※)。今後の研究の進展に期待しています。
〈※観相学の研究の中に相貌心理学というものがあります。その源流はフランスにあります。フランス語の原著に観相学的な考えが科学的に実証されているものがあるかも知れません。しかし、筆者はフランス語を読めないため、この見解はあくまでも日本語と英語の著作や論文に基づくものとなります〉
一方、顔面筋の動きを伴う顔、すなわち表情と性格、行動や未来との関係については、あるメカニズムを紐解くことが出来ます。ここでは静的な観の相の研究と比べるため、一瞬の表情を固定した写真との関係を調べた研究を取り上げます。
フェイスブックの写真の中で
笑っている人物は、しかめ面の人物に比べ、人生に対する満足度が高く、より良い人間関係を送っていることがわかっています(Seder & Oishi, 2012)。
また、
卒業記念アルバムで幸福表情が弱いほど、離婚する傾向にあり、幸福表情が強いほど、婚姻関係の安定性や満足度が高いことが実証されています(Harker & Keltner, 2001)。さらに、Cross(2016)の研究では、学生証の身分証明写真を分析対象にした研究から、学生証の写真の表情が、真顔に比べ幸福表情の人物は、予防的な目的で医療施設に多く訪れることがわかっています。
こうした研究は、顔と特性との関係についての研究同様、因果関係についてはわかりません。しかし、素材である写真は、フェイスブック、卒業アルバム、学生証と他者に観られることを前提とした写真です。このことから、写真が一種の自己表現の場、他者に見せたい自分像を作る場になっていると考えられます。
Cross(2016)の研究で考えてみます。学生証の証明写真に笑顔で写る学生は、健康であるから笑顔になる、もちろん、この方向も考えられます。しかし、感情というものは刹那的なものであるため、証明写真を撮影するとき、この学生の気分は優れないかも知れません。
しかし、人に見せることを意識して笑顔を作り、撮影に望む。こうした自己表現を心がける学生は、そうでない学生に比べ、人当たりがよく、健康に気を使い、活動的に人生を歩もうとする。こう考えることが出来るのではないでしょうか。
病気予防の目的で医療機関に訪れるということは、病気の早期発見につながり、寿命にも関係してくると考えられます。