一国二制度が崩壊した香港の現在 デモを捉えたドキュメンタリー『香港画』。堀井威久麿監督
『香港画』が全国の劇場にて公開中です。
香港政府が「逃亡犯条例改正案」を発表したことをきっかけに昨年6月から起こった香港の民主化デモ。デモに参加している人々の多くは、小中学生も含む若者たちだった。何千人という人たちによって繰り返される非合法なデモ、街頭での破壊活動。そして、警官隊から浴びせられた催涙ガスやペッパースプレー、放水によって負傷した人々を救うボランティアの救護隊。彼らをこれほどまでに強く動かすものは何か――。
28分間に凝縮された衝撃と怒りのドキュメンタリー。
今回は、前回に引き続き、昨年の香港の民主化デモに密着し現地の様子を捉えた堀井監督に香港国家維持法適用以降の香港の様子や今後の行く末、そしてこれから取り組んでみたいテーマなどについてお話を聞きました。
――11月24日には区議会選挙が行われて、民主派の議席数が約8割を占め、親中派の議席数をひっくり返しました。これで民主化が進むかもしれないという期待感はデモ隊にあったのでしょうか。
堀井:最初はありましたね。その前に香港理工大で大きな衝突があってたくさんの逮捕者が出たということもあって停戦が呼び掛けられていたということもありますが、区議会選挙が終わってから10日間は平和な日々が続いたんです。でも、また年末に向けて運動が盛り上がって行きました。
というのも、11月の区議会選挙は立法会の議員を選んだわけではないので意味がないんです。立法会の議員は親中派で占められており、また、今年9月に実施されるはずだった立法会の選挙はコロナを理由に1年延期されてしまいました。
――香港行政長官の林鄭月娥(キャリー・ラム)は現地ではどのような存在なのでしょうか。
堀井:中国の操り人形的な存在に映っているようです。官僚出身で仕事をこなすのが上手い人とのことですが、リーダーシップがないという評価です。現地のテレビ放送を見ていましたが、顔つきや目つきをみていると自分の言葉で喋ってるのかということは感じました。
――デモ隊には彼女に対する不満があったのでしょうか?
堀井:やはり一貫しない言動に不満はありましたね。キャリー・ラム行政長官は6月にデモが行われた時に「私達は若者の母です」と言ったのですが、若者たちは裏を返して「お前は母じゃない」というスローガンを打ち出しました。
――今年の7月1日から香港国家安全維持法が施行され、民主活動家の黄之鋒(ジョシュア・ウォン)、周庭(アグネス・チョウ)、林朗彦(アイヴァン・ラム)の3人に実刑判決が下され、彼らは収監されました。
堀井:デモ隊の若者たちは非常に残念がっています。一方で、彼らは2019年のデモの代表者ではありません。日本ではあまり熱心に報道されていませんが、彼らの裏には2300人の若者が逮捕され、起訴されているということも訴えなければならない現実だと思います。
――運動の後半はコロナ禍によって「人を集めることができない」という状況になりましたね。
堀井:コロナで一番の漁夫の利を得たのは中国だったと思います。ウィルスの感染拡大を防ぐため、今年の3月末に香港政府は公共の場所で5人以上が集まることを禁止しました。これで事実上抗議集会やデモは不可能になったんです。そして、5月末には中国全国人民代表大会で香港に国家安全法を導入することが決まり、7月1日に香港で施行されました。
結局、7月1日の時点で、一国二制度は事実上崩壊してしまいました。運動の士気はここで一気に下がりましたね。
――1997年の返還時から一国二制度は2047年までとされています。今後、香港はやはり「中国の一部」という存在になって行くと思いますか。
堀井:10年後20年後はわかりませんが、しばらくは中国が香港をコントロールしていくという状態は続いていくのではないでしょうか。
香港特別行政区基本法が香港を規律するルールですが、7月1日から施行された香港国家安全維持法はその上位に位置付けられており、しかも柔軟に解釈できるようになっています。今の状態では何をしたら犯罪なのかがよくわかりません。中国政府がいかようにも香港人の権利自由を決定できてしまうんです。そのことが現地人に恐怖感をより一層与えています。
また、学校教育にも影響が出ています。昨年の教科書にはあった1989年の天安門事件の記載は今年の9月に販売されている教科書からは削除されました。一昨年まで天安門事件について語ることは自由でしたし、集会も開かれていましたが、今そうした動きはありません。
――第二次世界大戦の終戦以降、香港はイギリス統治下で繁栄していましたが、中国による締め付けで経済的にも影響は出ているのでしょうか。
堀井:香港から人材が流出していることは確かです。亡命する人も出て来ていますね。日本の金融機関も香港からの撤退が続いています。ただ、今の中国の政治体制はそんなことすら気にしていないという印象ですね。香港から外国人がいなくなっても困らないと。
90年代の返還直後の中国全体のGDPに占める香港の割合は30パーセントでした。ところが今は、2,3パーセントです。そういう意味でも、中国にとっての香港は注視すべき存在ではないのかもしれません。例えば、香港から30分で行ける中国の深圳の方がはるかに都会的な雰囲気で栄えています。このまま香港は経済的にも衰退して行ってしまうのかもしれませんね。
昨年から今年に掛けて起こった香港の民主化デモを記録したドキュメンタリー、堀井威久麿監督作品コロナ禍で民主化運動がストップ
天安門事件が教科書から削除
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2020.12.24
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