第2次男女共同参画基本計画でのバックラッシュ<「乗っ取られ」た男女共同参画>

山谷えり子

男女共同参画第二次計画策定の時に、自民党の右派議員は「自民党過激な性教育・ジェンダーフリー性教育調査検討プロジェクトチーム」を発足し、介入した。写真は同PT 事務局長の山谷えり子(右)。ちなみに、座長は安倍晋三前総理(時事通信社)

なぜ男女共同参画は停滞し、影響力を低下させたのか

 本連載の目的は、内閣府男女共同参画局・男女共同参画会議(以下、男女共同参画局/会議)の成立がジェンダー平等につながらなかった原因を探ることだ。  本連載 第1回では、男女共同参画局/会議成立までの歴史を紐解き、国際的なフェミニズム運動による外圧と国内での橋本行政改革の合流地点で起こった「多元化」と「集権化」の相克こそがその性格を決定づけたことを示した。  この第2回と、次回第3回の記事では、男女共同参画局/会議の成立以降、その性格がどのようにバックラッシュと停滞に繋がったかを見ていきたい。これについては、男女共同参画局/会議の「政策への影響力」と「政策へのアクセス」に分けて考える。「政策への影響力」とは男女共同参画局/会議が実際の女性政策に与える影響の度合いのことであり、「政策へのアクセス」とは男女共同参画会議がフェミニストや女性団体などの市民社会のアクターに機会を与える度合いのことだ。  今回の記事では、特に「政策への影響力」の低下について、2005年の第2次男女共同参画基本計画の政策過程を追うことで示したい。

2005年までの男女共同参画局/会議

 2005年までの男女共同参画局/会議は、政府の他の部署とは異なった見解を示す多元的な性質を持っていたものの、首相のリーダーシップを反映する集権的な性質はあまり持っていなかった。  当初、重視された男女共同参画局/会議の機能は、(1)調査・監視、(2)議題設定、(3)計画策定の3つだった。  とりわけ(1)調査・監視は、全ての政策領域においてジェンダー平等の視点を組み込む「ジェンダー主流化」を目指す要の機能として期待された。しかし、(1)の機能に関する専門調査会は「同一価値労働同一賃金」など踏み込んだ提言も行っていたものの、ほとんど実際の政策に取り入れられることはなかった。  また(2)議題設定についても、2000年代前半に立法された女性政策と関わりの深い法律(DV防止法や少子化社会対策基本法など)のほとんどが議員立法であることからも、あまり機能していなかったと考えられる。  このように男女共同参画会議が影響力が小さい中でも多元的な性質を持つことができた背景としては、小泉首相が行政改革の果実をもとにリーダーシップを発揮する分野として男女共同参画を選ばなかったこと、専門調査会の委員にフェミニストが一定数選ばれていたことがある。  そんな中、成立以降はじめて(3)計画策定の機能を発揮する2005年の第2次男女共同参画基本計画の策定は、各省庁にまたがる総合的な方針を提示するものであり、影響力向上の機会となりえるはずだった。
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バックラッシュの攻勢
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