――ヤクザによる地上げも登場しますね。
井筒:ヤクザ社会を描くことにしたのは、資本主義とそれを裏から支えた脱法行為を揶揄したかったというのもあります。日本の資本主義は脱法行為によって支えられてきました。金融機関の債権回収でヤクザが動くのは当たり前の話だけど、バブル期にはヤクザの前にも後ろにも普通の企業がたくさんありました。
(C)2020「無頼」製作委員会/チッチオフィルム
例えば、バブル期の地上げでは、裏で銀行が絡んでいることも普通にあった。土地に根抵当権を設定した上で、ヤクザが地上げし、住民を立ち退かせて競売にかけて債権回収をする。銀行はダーティーワークはやりたくないから、ヤクザにやらせて、住んでいる人を追い出すんです。そんなところにヤクザは生きる術を見出すんですね。直接手を下していない企業はお咎めなしになったり、「法律を破らなければ何をしてもいい」という時代だったんです。
資本主義とヤクザは表裏一体で、ヤクザ自体が急成長する日本の資本主義の欲望と一緒に出て来た。要するに、資本主義の欲望の象徴の一つがヤクザだったんです。
――劇中では昭和史における政治とカネのニュースが流れ、また物語でもヤクザと政治家との蜜月関係が描かれます。
井筒:日本だけではなく、世界中で金権政治が問題になってますが、「企業献金」という名の通り、政治家に対する献金は法律的にも認められています。
権力で国民を縛っている側が、警察に国民を取り締まらせている側が、ちゃっかりお金を受け取っている。政治家が企業から金を貰ってその会社が太るような政策を作って、また金を貰って……という構造は全てではないけれど、否定はできません。今でも「先生に口利きしてもらったら物事がうまく進んだ」という話は聞きますよね。そういうことに対する皮肉です。
――土地買収に絡んで新興宗教と建築業そして市役所の癒着も登場しますね。
井筒:当時はいろんな宗教団体が乱立していて、霊園商売というのがあったんです。宗教法人は非課税なので金が貯まりやすいんです。そして、貯まった金でお墓を作ると更に儲かるんですね。不動産ビジネスと同じで土地を宗教法人が買って、お墓を作って入る人を募れば永代使用料が取れます。墓地を作るには許可が必要なので議員が絡んだり、土地買収に地上げの形でヤクザが関与することもありました。
――警察との撃ち合いの中で、警察が撃った弾で破損した民家のガラスの弁償が井藤組に請求されるなど、おかしな「法律の壁」のエピソードもありますね。
井筒:実際の撃ち合いで県警の撃った弾が外国人の家に当たって、その外国人が暴力団相手に裁判を起こしたという記事を新聞のコラムで見たんです。県警が撃った弾なので本当は県警が払わないといけないのですが、県警にしてみれば不可抗力で撃った弾。元はトラブルを起こしたヤクザがいけないのだから「ヤクザが払え」となった。市民社会とヤクザの接点のエピソードを脚本仲間と調べました。「ヤクザを通して社会の不条理を描く」という視点で新聞記事を片っ端から集めたんです。
――姐さん(組長の妻)についてのエピソードも実話とのことでした。
井筒:浮気が発覚するシーンがありますが、「あなたは何しているの?アラブの王様なの?」と佳奈は詰め寄ります。あれは本で読んだのですが「あなたはみんなの組長かもしれないけど私の組長ではない」という言葉が書いてありました。私は好きになって一緒になったけど、自分は組員ではないと。だから「私に嘘はつかないで、正直でいてください」と組長の妻が言ったそうです。
(C)2020「無頼」製作委員会/チッチオフィルム
劇中で浮気の発覚した井藤は「じゃ、この町では浮気はしないよ」と宣言します。ある意味、開き直りですが、逃げてはいない。それが良いか悪いか別として、向き合って生きるのであれば決着を付けないといけない。
最近の若い男は言い訳がましいことを言って逃げますが、僕も言い訳するのは大っ嫌いです。どんな場面においても潔くあれ、と言いたいです。
――組長の妻の佳奈を演じる1994年生まれの柳ゆり菜さんが、昭和の雰囲気をとてもよく醸し出していましたね。
井筒:ゆり菜君はオーディションで3000人の中から選びましたが、昭和顔なんです。姐さん役の佳奈は、「着物が似合う、きっぷのいい女性」でないと、と思って。彼女は大阪出身で、性格もサバサバしていてぴったりだったんです。見事に演じてくれました。
※近日公開予定の続編では、アウトローを描く理由や映画に寄せる思いについてお伺いします。
<取材・文/熊野雅恵>
<撮影/萩原美寛>
くまのまさえ ライター、クリエイターズサポート行政書士法務事務所・代表行政書士。早稲田大学法学部卒業。行政書士としてクリエイターや起業家のサポートをする傍ら、自主映画の宣伝や書籍の企画にも関わる。