実験参加者を3人1組のグループに分けます。このグループは、全て白人の同人種グループか白人2人に1人ブラックアメリカンが入った異人種混成グループです。
グループ毎に、アルコール飲料、プラセボのアルコール飲料(実験参加者は本物のアルコールが入っていると思っているものの、本当はアルコールではない飲料)、アルコールではない飲料を0分、12分、24分のタイミングで飲んでもらいます。そして、36分間、会話をしてもらいます。その間、実験参加者の不快に関わる表情及び沈黙の頻度を計測します(沈黙が多いほどが不快を意味します)。
実験の結果、アルコールを飲んでいない条件において、異民族グループの白人参加者らは、同人種グループの参加者らに比べ、不快な表情をよく多く浮かべ、沈黙も長いことがわかりました。一方、アルコールを飲んだ条件において、異・同人種グループ間に不快に関わる表情・沈黙の差に違いがないことがわかりました。
短時間かつ適度なアルコールで、物理的な密を避けても、心は密に
この研究は、ブラックアメリカンに対する白人の差別意識を前提においており、日本にある差別と同じように考えてよいかは議論が必要です。しかし、そりが合わない、意見の相違がある、あまり話したことがないけど苦手意識がある、そんな方々と酒を飲みかわす場面に適応できる可能性があると思います。
アルコールの摂取が、不快感に関連する表情を減少させることで、それに伴うネガティブな感情が減る。沈黙の頻度が減少することで、ぎこちない空気感が緩和される。その結果、コミュニケーション上、丁寧なふるまいになる、丁寧なふるまいに映る、こうしたことが起こるのではないでしょうか(アルコールの飲みすぎで気持ちが大きくなり、トラブルを起こすような人は論外ですが)。
苦手意識を持つ人が、酒の席で陽気になり、ネガティブな顔をせず、こちらに言葉を投げかけてくる。一方、苦手意識を持つ人に対して、アルコールがネガティブな気持ちを減らし、その相手に投げかける言葉を増やす。温和な表情で言葉を交わすことで誤解が解けたり、譲り合いの気持ちが生じるのかも知れません。
苦手な方とのコミュニケーションに限らず、無目的で効率を考えないコミュニケーションは、人となりを理解したり、意外な発想をもたらしたりととても大切です。
コロナ禍において、物理的な距離の広がりが心の距離の広がりになり、悲しい事件や心の病気につながってしまう出来事が垣間見られます。これまでと同じ飲み会は難しくても、リモート飲み会や三密を避けられる飲み会、時短飲み会など工夫は色々出来ると思います。短時間かつ適度なアルコールで、
物理的な密を避けても、心は密に、コロナ禍でも楽しい忘年会や新年会を過ごして頂ければ幸いです。
参考文献:
Capito ES, Lautenbacher S, Horn-Hofmann C. Acute alcohol effects on facial expressions of emotions in social drinkers: a systematic review. Psychol Res Behav Manag. 2017 Dec 5;10:369-385. doi: 10.2147/PRBM.S146918. PMID: 29255375; PMCID: PMC5723119.
Fairbairn CE, Sayette MA, Levine JM, Cohn JF, Creswell KG. The effects of alcohol on the emotional displays of whites in interracial groups. Emotion. 2013;13(3):468–477.
<文/清水建二>