「全国のパチンコ店が、業界の未来を考え高射幸性遊技機を撤去するなか、その取り決めを守らないお店には正直、怒りを越えて悔しさを感じます。確かに法的には問題ないかも知れないが、業界関係者であるならば、撤去しなくてはならない理由も充分に知っているはずなのに」
神奈川県にある某パチンコ店の店長は、感情を噛み殺しながら筆者にこう話してくれた。そもそも全国のパチンコ店は、なぜ法律に反する事のない遊技機を撤去しているのか。
高射幸性遊技機はパチンコ店の営業を支える柱の遊技機である。ましてコロナ禍によって客数も売上も格段に落ち込んでいる。そのような状況下において、ほぼ全国のパチンコ店が高射幸性遊技機を撤去したのは、政府のギャンブル等依存症対策に協力する業界の呼び掛けに応じたものであるし、同対策において警察行政が一番問題視している高射幸性遊技機をしっかり撤去することにより、今後の規制緩和の議論の土台を築きたいという業界の思惑に同調したきらいもある。
業界団体が21世紀会の取り決めに応じない場合、何かしらのペナルティを課すという声明を発出しているのも理由だろう。
高射幸性遊技機を撤去していないパチンコ店は他にもある
しかし足並みが揃わない。
高射幸性遊技機を撤去しない「ともえ町田」側にも、法律に反していないという反論もある。業界団体がペナルティを課すのであれば、そしてそれが正当なものであれば甘んじて受け入れるという姿勢もある。
双方に言い分はあるのだが、その主張の根本が、個社個店の視点なのか、9000店舗以上が営業を続ける業界視点なのかが問題なのだ。そしてこの二つの視点から導き出されるものが相反する場合、それは衝突せざるを得ない。
実は該当する高射幸性遊技機を撤去していないパチンコ店は「ともえ町田」だけではない。
全国規模ではいくつかのパチンコ店が、高射幸性遊技機での営業を続けている。ちなみに大阪府のみ撤去期限は12月末以降なので設置は可能なのだが、それ以外のすべての都道府県では該当遊技機の設置期限は過ぎている。業界団体はそのようなパチンコ店を歯痒く思っているし、そのようなパチンコ店の隣で営業を続ける競合店は歯噛みをする思いだろう。
そのような業界内の様々な思いが交錯する状況で、今回都遊協が下した処分は、実は業界団体側が、全国で初めて公に処分したもの。処分によって「ともえ町田」が被る不都合の大小が大事なのではない。都遊協が示した「一罰百戒」の想いが果たして全国のパチンコ店に伝わるのか――
高射幸性遊技機を巡るパチンコ業界内の葛藤は、まだまだ複雑に絡み合っている。
<取材・文/安達夕>