『JR上野駅公園口』で全米図書賞受賞の柳美里が語る、「書いていた時期は『どう死のうか』と毎日考えていました」

芥川賞作家として知られる柳美里氏の小説『JR上野駅公園口』が、アメリカで最も権威のある文学賞の一つ全米図書賞(翻訳文学部門)に輝いた。日本社会に横たわる“孤絶”を見事に描いた柳氏にインタビューした。

「私自身が生きることからこぼれ落ちていた状況だったからこそ書けた」

柳美里

全米図書賞(翻訳文学部門)に輝いた『JR上野駅公園口』の著者・柳美里氏

 11月20日に全米図書賞(翻訳文学部門)を受賞した柳美里氏の『JR上野駅公園口』。東日本大震災後の’12年に書かれた同作の主題はホームレスや自殺で、コロナ禍の日本ではより深刻な問題だ。  震災や今年延期になった五輪との繋がりも見いだせる本作は、“多くの日本人が目を背けてきたもの”が描かれている小説であり、海外で先に評価されたことは国内でこの問題に光が当たる契機にもなるだろう。 『JR上野駅公園口』の主人公は、福島県南相馬郡から1963年に出稼ぎで上京した男性。その後の人生で家族も帰る家も失った彼は、’20年の東京五輪の誘致活動が行われている時期、上野駅公園口でホームレスとして暮らしていた。  冒頭では彼が自殺へ向かう様子が描かれるが、「執筆当時は私もうつ状態がひどく、『どうやったら死ねるか』と毎日考えていた」と話す。 「抗うつ薬や睡眠薬も量が増え、顔が焼けただれた大量のキューピーが目の前に現れたりと、幻覚もひどくて起きられない状況でした。この小説はそんな時期にツイッターに鍵アカを作り、ベッドで140字ずつ書き進めたものなのです」  物語は、主人公の人生の出来事や、公園口で見ている情景、周囲を歩く人の話し声が入り乱れる形で展開していく。「死」に引き寄せられていく人間の様子がリアルに伝わる文章は、「私自身が生きることからこぼれ落ちていた状況だったからこそ書けた」と語る。

’64年五輪の出稼ぎ労働者が’20年の五輪で街を追われる

書店フルハウス

柳氏初の小説単行本の名を冠した書店フルハウスは小高駅から徒歩3分の場所にある。今回の受賞で全国各地からお祝いの花が届いた

 主人公が上京後に従事した仕事は、’64年東京五輪の競技施設の建設作業だ。この逸話は、柳氏が南相馬ひばりエフエムの番組『柳美里のふたりとひとり』で600人の地元住民から聞いてきた逸話がもとになっているという。 「ラジオを通じて出会った人のなかには出稼ぎをしていた方も多く、オリンピックの体育施設の建設現場にいた方もいました。以前、上野公園でホームレスの『山狩り』の取材をしたとき、『ここで寝泊まりする人には東北出身者が多い』と聞いていたので、2つの話が震災後に繋がったんです」 「山狩り」とは、皇族が訪れる直前にホームレスの人たちを公園から追い出す「特別清掃」のこと。 『JR上野駅公園口』は、先のオリンピックの建設作業に従事した出稼ぎ労働者がのちにホームレスとなり、’20年の五輪招致下の“浄化活動”で街から追われる物語でもあるのだ。
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受賞作と対になる新作『常磐線夜ノ森駅』
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