なぜ国会報道は政局報道になってしまうのか? 求められる「論点に沿った」報道

国会議事堂

K@zuTa / PIXTA(ピクスタ)

 政治と報道をめぐる短期集中連載第7回。今回は、国会報道を取り上げる。「与野党攻防」「逃げ切り」「決定打に欠けた」など、なぜ国会報道は対戦ゲームのように報じられるのか。なぜ政局がらみで報じられ、論点に即して報じられないのか。この問題を考えてみたい。

批判を呼んだ「逃げ切り」記事

 今回も例に即して考えてみたい。検討の素材は、ツイッター上で話題となった毎日新聞のこの記事だ。11月2日からの衆参の予算委員会と11月10日の衆議院本会議を終えた段階での国会動向を示したものだ。 ●自民、学術会議問題で「逃げ切り」に自信 「批判の電話も少ない」 月内に集中審議 – 毎日新聞 2020年11月10日  この記事を戦史/紛争史研究家の山崎雅弘氏が「「自民、学術会議問題で『逃げ切り』に自信」とか、政治記者なのに、なんでそんな風に「傍観」するんですか。」と批判した。  山崎氏の批判は次のように続いている。 “この問題の本質は「現職総理大臣による違法な人事介入」であって、与党は野党はではなく、法律の専門家に違法性を確認するのが報道の仕事でしょう。ふざけている。” “野党は「違法だ」と言う。与党は「違法じゃない」と言う。「議論は並行線で噛み合わない」。そんなの報道の仕事じゃなくて、ただの素人の見物人、傍観者です。違法か違法でないか、専門家の意見を片っ端から聞いて、それを記事にするのが報道の役目。その責務を放棄したから、政治がここまで堕落した。” “政治報道が「見た目の中立病」「責任逃れと判断停止の両論併記病」のぬるま湯に浸って国民を裏切り続ける態度は、政治の腐敗をただ傍観するだけでなく、論理的な批判の腰を折るという面で「堕落のアシスト役」ですらある。米国メディアは社会の自浄能力を発揮した。日本のメディアは恥ずかしくないか。”

「傍観していません」という記者からの反論

 これに対し、この記事を執筆した毎日新聞政治部の宮原健太記者が「傍観していません」と反論。 記事執筆者ですが、傍観していません。他にも野党ヒアリング詳報や自民党の学術会議批判のファクトチェックもしています。記事をきちんと読めば分かりますが、これは集中審議について与野党の主張を載せたスタンダードなものです。1つの記事だけ見て「ふざけている」と批判するのは極めて短絡的です。  続くツイートで宮原記者は、 “報道におけるストレートニュースとは何かという認識が浸透していないのだろう。それは各々の主張を載せた、媒体としては客観的で中立的な記事で、議論の土台になるもの。それを土台に作った批判を含む主観的な記事とは位相を異にする。新聞紙として記事が読まれなくなり説明が必要になってしまった。” と記した。  さらに宮原記者は1年前から開設していた「ブンヤ健太の記者倶楽部」というみずからのYouTubeチャンネルで、記事公開の5日後の11月15日に「記者が語る!ニュースとは一体何なのか!?」と題してこの問題を取り上げた。 ●【LIVE配信】記者が語る!ニュースとは一体何なのか!?【毎日新聞】  宮原記者の主張は、私なりの理解で要約すれば ●ストレートニュースと深堀り記事の違いを理解していただきたい。 ●この記事はストレートニュースであり、批判的な視点も入れた深堀り記事は、他に配信している。それらを総体として捉えていただきたい。 ●国会の状況を報じる場合に与党側の主張と野党側の主張の双方を並べるのはスタンダードなものだ。 というものだ。  私は宮原記者の主張には同意できる部分もある。「逃げ切り」という「自民党幹部」の声を記事で報じたからといって、宮原記者が「自民党は逃げ切った」と考えているわけでもないことも理解している。この記事の見出しは宮原記者が付けたものではなく整理部が付けた見出しであり、その見出しに対する批判まで宮原記者が背負わなければならないのは気の毒だとも感じている。一宮俊介記者がツイートで指摘しているように、この記事の紙面での見出しは「月内に予算委 合意 野党 首相になお照準」というものであったという。  また、私は宮原記者のこの記事を「ふざけている」とは思わない。宮原記者自身が語っているように、これは毎日新聞の政治部記者が書く記事として「スタンダード」な形式にのっとったものなのだろう。  けれども、私も山崎氏と同様に、このような政治報道のあり方じたいを、各社の政治部記者には見直していただきたいと考えている。そのことを以下に論じたい。
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ストレートニュースにも「視点」や「判断」は含まれている
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