追悼・宅八郎。元担当編集の記憶に今も残る、彼の言葉

仕事への矜持と理不尽に対する怒り

 確かにその「復讐」たるや、先述したように明らかに度を越したものもあり、狂気を感じた。しかし、少なくとも私の知り得る限りでは、彼の怒りを買い、復讐の的になる相手は、「筋を通さない」人間や、自身の立場を利用して高圧的な態度を取るような人が少なくなかったように記憶している。つまり、彼は「筋の通らない理不尽な相手」や「立場を利用して傲慢で高圧的な相手」、「無知を棚にあげて賢しらに振る舞う連中」に怒りを抱いていただけなのだ。  そして、自身の原稿、仕事についてもストイックなまでに真剣な人だった。普段の原稿も、一字一句こだわりぬく。調査は徹底して行い、普通の人なら見逃すようなネタも拾ってしまう。それゆえ、フリーライターを軽んじるような傍若無人な振る舞いの編集者や、またはよくわからないまま適当なことを書くような人物に彼は我慢ならなかったんじゃないかと思う。  単純な誤解や間違いに基づくものであれば、指摘された相手側が非を詫びれば後腐れなし。そんな感じだった。  というのも、まだ編集者としても社会人としても未熟だった私に、彼は文章の書き方や編集者としての心構えを、意外かもしれないが、かなり親身に教えてくれていたのだ。

「“ライターを使う“っていう言葉が嫌い」

 私の中で記憶に残っているのは、「僕はね、“ライターを使う“って編集者が大嫌いなんだよ。なんだよ“使う“って。道具じゃないんだよ。そういう言葉が、横柄な編集者の態度に繋がっていくんだよ。お前は絶対“ライターを使う“なんて言うなよ」という言葉だ。それだけ彼はクリエイターとしてプライドを持って全身全霊で原稿執筆やその他の創作活動に臨んでいたし、自分が書いたこと、紡いだ言葉にはストイックなまでに責任を持つ人だった。  編集者として年月を経るとともに、当時彼に言われた様々なことが、創作という仕事において忘れてはいけないことだったんだなと痛感することは何度となくあったように思う。  ただ、「復讐」の標的にならなかった、彼の友人や仲間として接していた人も、そんなに付き合いが長続きしなかった人も多かった。それは恐らく、「仲が良い」となるとものすごく濃密な関係性を構築せざるを得なくなり、最初は面白く付き合っている人も、いつしか疲弊してしまうからだったのかもしれない。  連載終了後、没交渉になっていたけど、折に触れて選挙に立候補したり、ホストになったりDJをやっているなどという知らせを聞いて、これだけ年月を経たあとならばもう一度会って普通に話せるのではないかと思っていた。しかし、それは遂に叶わなかった。できれば亡くなる前にもう一度会って、話してみたかったと思う。  さようなら宅さん、ありがとうございました。 <文/HBO編集部・高谷洋平>  
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