デリヘル嬢の抱える生きづらさを描く『タイトル、拒絶』。山田佳奈監督インタビュー
『タイトル、拒絶』が全国で公開中です。
舞台は雑居ビルにあるデリバリーヘルス「クレイジーバニー」の控室。就職活動が上手くいかず、デリヘル嬢になるつもりで体験入店に来たカノウ(伊藤沙莉)は、いざという場面で客から逃げ出してしまったことからデリヘル嬢たちの世話係となる。
一方、一番人気のマヒル(恒松祐里)、我の強いアツコ(佐津川愛美)、スタッフの良太(田中俊介)に思いを寄せるキョウコ(森田想)はそんなカノウに勝手な注文を付けてばかり。若いデリヘル嬢たちを一歩引いた目で見るベテランデリヘル嬢のシホ(片岡礼子)やデリヘル嬢たちを厳しく管理する山下(般若)なども混じって、それぞれが思いをぶつけ合う中、若いモデル体型の女性が入店する。そして、その日を機に、店の中の人間関係やそれぞれの人生に異変が起き始める――。
今回は劇団□字ック(ろじっく)の主宰者であり、本作が長編デビュー作となる山田佳奈監督に、製作の経緯や登場人物たちに寄せる思いについて聞きました。
――どのような経緯で演劇作品だった『タイトル、拒絶』を映画化することになったのでしょうか。
山田:2年程前にプロデューサーの内田英治監督と会って「君は本当は何をやりたいの?」と言われて「映画化したい作品があって監督したい」と言ったんですね。そうしたら内田さんが「じゃあやってみなよ」とポロッと、簡単におっしゃったんです。そこで、演劇作品だった2013年公演の『タイトル、拒絶』の脚本を送って見て頂きました。すると、返事が来て「これは女性のあなたにしか撮れない作品。ぜひ、撮るべきだ」と。そこからは早かったですね。
劇団は2010年3月に旗揚げして今年で10周年ですが、映画は4年前から撮り始めました。演劇を演出することは楽しかったのですが、このまま同じことを続けていたら演出力は頭打ちになると思って、自分の演出の可能性の幅を広げるために映画を撮り始めたんですね。今まで短編は4本撮って来ましたが、長編は初めてです。
――冒頭のカノウが独白をする長回しのシーンは演劇的だと思いました。
山田:最初は自分が演劇人であるということを白紙にして、映画の世界に敬意を表してシーンを細かく撮ったり、カットを割って撮影しようとしていました。
ところが、内田さんが「1本目の長編はとても大事。シネコンで掛かる映画ならともかく、インディーズなんだから実験的なものにして、自分の特徴を上手く使いなさい。舞台の脚本のままでいい」とおっしゃって。
その言葉を聞いた時に、自分なりの実験的なものや特徴は何かと考えたんです。それはやはり、俳優の芝居を知っていることと演劇の経験だと思いました。そこで、今回の作品はその2つを上手く実験的にミックスしたものにしようと。最初のシーンは客席を睨む雰囲気が出せたらと考えました。
――風俗店が舞台になっていますが、ルッキズムも然り、「女性が社会において強いられる役割」という点でも、何ら実社会と変わらないと思いました。レコード会社勤務時代の経験がベースとなっているとのことでしたね。
山田:やはりレコード会社の仕事は芸能界のお仕事なので、少しでもメディアに対してアーティストを売り込んで知名度を上げないといけません。宣伝部にいたのですが、女性スタッフが男性にプロモーションする時には、面白いこと、顔がかわいいこと、露出度の高い服を着ていることが必須条件というような雰囲気もありました。自分は言わば飲み会要員であり、ひな壇芸人のようでもありました。とにかく仕事を取らないといけなかったんです。
アーティストのために自分が頑張ってメディアに露出させて育てていく仕事はやりがいも感じていたし楽しかったです。でも一方で、「パフォーマンスとして女性を演じて営業する」ということに違和感を覚えていました。ところが、20代前半で会社員を辞めてから作品を作り出した時に、自分の「女性」性に向き合わざるを得なかったんですね。というのも、たまたま男性の友人に「あなたの作品は女性への畏怖を感じる」と言われたんですね。その時に「畏怖って何だろう?」と思って。ひょっとしたら過剰に女性であることを避けていたのかもしれません。
その頃、たまたま椎名林檎さんのインタビューをまとめた本を読んだのですが、お付き合いしている男性が変わったら曲の歌詞が変わっていくことに、カリスマと呼ばれるアーティストでもそうなんだと思ったんですね。そこで荷が下りた気がしました。人として作品を作ればいいんだと。そして、結局は私も女なんだと。そこから自分が女性であるということと向き合う時期に入りました。
――ストーリーはセックスワーカーの方のブログを読んだことから着想を得たとのことでしたね。
山田:その頃は今のようにパフォーマンスでブログを書く時代ではなく、本当に心情を吐露する場だったんですね。お客さんに対して「あの人はこれから生きて行けるのだろうか」などと思いを寄せる聖母のようになる時もあれば、お客さんに対する愚痴も綴られていました。そしてそれは遠からず近からず、女性という一括りの中では自分も同じでした。でも、自分自身は1人の人間であり、アイデンティティがある。そのアイロニーを作品にしたいと思ったんですね。
それぞれ事情を抱えながらも力強く生きるセックスワーカーの女性たちを描いた山田佳奈監督舞台作の映画化にあたって
自らの「女性」と向き合って
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2020.11.02
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