米大統領選をめぐるフェイクニュースと「新宗教系メディア」の関係

宗教系メディアは信頼に足らないのか

 ワシントン・タイムズ、世界日報、大紀元。いずれも問題のある宗教団体と関わりが深かったり実質的に一体だったりするメディアで、極端な反中国共産党の立場から、トランプ氏支持あるいはバイデン氏批判の情報を発信している。  反共団体だの宗教系メディアだのと言われると、左派やリベラルの人々のみならず、新宗教に抵抗を感じる人が多い日本人であれば自動的に信憑性を疑いたくなるだろうし、それらのメディアを引用する人々を軽蔑したくなるだろう。しかし、個別の事実を確かめるのではなくメディアやその母体を理由に否定するのは、諸刃の剣になりかねない。  菅首相が日本学術会議の会員候補6人について任命を拒否した問題は、日本共産党の機関誌「しんぶん赤旗」によるスクープが発端だった。  日本共産党と青年組織「民主青年同盟(民青)」は、民青が事実上同党のいち部門あるいはフロント組織であることを頑なに否定し、共産党との関係を隠し、あるいは偽って、政治活動を行うばかりか大学生等を勧誘する。それはさながら、統一教会が霊感商法を「教団ではなく信徒組織がやっていること」と言い逃れしようとし、国際勝共連合について「統一教会とは別組織」だと言い張るのと全く同じ構図だ。  そして自己矛盾という点でも、共産党は統一教会を笑えない立場にある。2016年の参院選で、「しんぶん赤旗」がかつて「カルト」と名指ししてきた浄土真宗親鸞会の幹部・柴田未来氏を野党統一候補として推薦。赤旗の紙面でも、柴田氏の素性やそれに対する批判に触れることなく柴田氏を応援した。  共産党は統一教会や法輪功同様に、信用ならない集団だ。赤旗はそのプロパガンダメディアである。ワシントン・タイムズや大紀元による報道を、その母体への評価を理由に全否定するなら、赤旗だって同じ理屈で全否定されてしまう。  しかし例えば最近では、日本学術会議の問題は赤旗がスクープしたことで世に示され、ほかの多くのメディアや共産党員ではない人々も注目している。私のライフワークである「カルト問題」に関しても、もともとも赤旗は貴重な報道を積み重ねてきた。赤旗の紙面には、党のプロパガンダとも言える記事も多い反面、一般の報道と比べて引けを取らないどころか抜きん出て価値のある報道もある。  さすがに統一教会や法輪功のメディアと同列に扱うのは赤旗に失礼だとは思う。しかし、メディアのスタンスや背景を踏まえつつも、個別の報道についてはそれぞれの内容や事実関係を踏まえて評価すべきという姿勢は、全ての団体やメディアに対して同等に向けるべきだ。  「保守系」「反中国」「宗教系メディア」と呼んで漠然と疑ったり否定したりという姿勢は、それはそれでリテラシーが足りないと言えなくもない。

中国の人権問題をめぐる分断

 なぜこんな話に字数を割くのかと言えば、中国の人権問題をめぐる議論が、こうした左右の対立や宗教団体の存在に翻弄されてきたからだ。  2008年のチベット騒乱を受けて日本でも盛り上がった「フリーチベット運動」は、様々な右派団体や人物が支援したり便乗したりしてきた。当時、在特会と桜井誠氏も、フリーチベット運動に混じって路上で中国を非難して見せた。チベット問題に関わる運動の中には、日本会議や国際勝共連合に関わる人物を中心としたものもある。  東トルキスタン(ウイグル族)問題についても同様だ。宗教団体も含め、右派勢力の支援や連携が目立つ。日本のウイグル人団体の代表者の日頃のFacebook投稿を読んでいると、もはや日本の右翼団体関係者のように見えてしまうほど、「日本バンザイ」「中国憎し」の連発だ。  これでは、左派の人たちの参入や応援は、なかなか期待しにくい。だからなお一層、これらのテーマが右派や反共集団のフィールドになっていく悪循環だ。  右派の中には実際「中国ヘイトをしたくて便乗しているだけ」という勢力もいるだろう。しかし、その流れから来る情報発信を全て「右派・反共集団によるフェイクニュース」と片付けてしまうと、現に存在する中国の人権問題やそれを世に訴えようとしている当事者たちの声をも軽視することにつながる。  たとえば今回取り上げた法輪功。とうてい信用に値しないし、できれば関わらないほうがいい団体だと思うが、彼らが中国で弾圧されてきた歴史までもがフェイクだとは考えにくい。法輪功をカルトと決めつけることは避けるが、雑な言い方をすれば「カルトにだって人権がある」。法輪功が発信する情報を、多少眉に唾して受け止めるとしても、中国当局による法輪功への人権侵害を看過するわけにはいかない。  だからこそ、アメリカ大統領選をめぐる根拠のない情報やフェイクニュースをめぐっても、「右派だから」「反共・反中国だから」「宗教系メディアだから」という理由で雰囲気的に全否定すべきではない。  冒頭で紹介したBuzzFeedの記事に対する私の違和感の理由もこれだ。具体的なメディア名や団体名を伏せて漠然と「宗教系メディア」と伝える姿勢は、「宗教」への情緒的な反感や否定に基づいた判断を招く。具体的にどのメディアや団体の何がどう、どの程度問題なのか。常に具体的な事実に基づいて判断する姿勢が必要だ。 <文/藤倉善郎>
ふじくらよしろう●やや日刊カルト新聞総裁兼刑事被告人 Twitter ID:@daily_cult4。1974年、東京生まれ。北海道大学文学部中退。在学中から「北海道大学新聞会」で自己啓発セミナーを取材し、中退後、東京でフリーライターとしてカルト問題のほか、チベット問題やチェルノブイリ・福島第一両原発事故の現場を取材。ライター活動と並行して2009年からニュースサイト「やや日刊カルト新聞」(記者9名)を開設し、主筆として活動。著書に『「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島社新書)
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