ソフトウェアは悪意のある道具か? Git HubのYouTube動画DLソフト削除騒動から考える

デジタルミレニアム著作権法の悪用

 デジタルミレニアム著作権法(DMCA)は、著作物を守るという崇高な目的があるが、その権限が強いために、よく悪用される。一定の手続きで申請すれば、対象のコンテンツを取り敢えず削除させることができるために、他者への攻撃に使われる。  個人や企業が、自身の悪評などを消すため、あるいは、単純に嫌がらせのために利用される。通知の真偽を確かめることなく、取り敢えず削除されるので、削除された側が、問題のないコンテンツであることを、その都度証明しなければならない。  多くの場合、申請された側が泣き寝入りするのだが、余力がある人が訴訟をするケースも増えている。  また、会社でこうした虚偽の申請をした場合は、ニュースになるなどして会社の評判を著しく落とすことになる。DMCA の悪用は、多くの人の反感を買う。そのため悪評を消そうとして、より大きな悪評をネットに刻むことになる(web > SEOP2Pとかその辺のお話R)。

ソフトウェアの用途の難しさ

 さて、youtube-dl の話から始めて、DMCA の悪用について話を進めた。最後に、私自身が経験した、ソフトウェアの用途の難しさについて書く。  大昔、ネットに、お絵かき掲示板というものがあった。Webブラウザに表示されるキャンバスにお絵かきをして、掲示板に投稿するというものだ。その頃はSNSもまだなく、色々なお絵かき掲示板サイトがあり、テーマ毎のスレッドがあった。そうした場所に絵を描いて投稿して、みんなで感想を書くといったことがおこなわれていた。  私自身、絵を描く人間なので、そうしたお絵かき掲示板サイトに出入りしていた。ただ、社会人なので、毎日の自由時間は少なかった。1枚の絵を描くのに、それなりの時間が掛かるので、セーブをしたかった。しかし、当時出入りしていたお絵かき掲示板サイトには、セーブ機能がなかった。  そこで、Webページのスクリーンショットを保存して、その画像を元に、前日のキャンバスの状態を再現するためのプログラムを書いた。非常に単純なツールで、お絵かき掲示板のペンの色を選んだあと、保存した画像の同じ色の場所を探して、同じようにドットを打つというものだった。  ドットトレーサーと名付けたそのツールは、思ったよりも便利だったので、一般にも公開した。  するとしばらくして、ドットトレーサーが原因で、お絵かき掲示板サイトで喧嘩が起きているのを目撃するようになった。ドットトレーサーを使えば、減色した写真を、そのままお絵かき掲示板に転写できる。そうした用途で使う人が出てきて、絵を手書きで書いたのか、ドットレを使ったのかという論争が起きていた。その結果、絵が上手い人ほど、難癖を付けられるという状況になってしまった。  便利だと思って公開したソフトウェアに対して、他の人が違う使い方を発明したわけだ。そして、意図しない論争が起きて、トラブルに発展した。私自身、過去に100本ぐらいのオンラインソフトを公開していたのだが、こうしたことは、たまに起きる。  ソフトウェアの公開は、なかなか難しい。こうした過去の経験を、youtube-dl のトラブルを見て思い出した。  プログラムは、処理の手順を書いて、それを自動実行するものだ。そのため、ある意味、手作業でできることを自動化して、コマンド一発でおこなえるようにしているだけである。本来できることを簡単にできるようにしたら、それは違法なのかという問題がある。 <文/柳井政和>
やない まさかず。クロノス・クラウン合同会社の代表社員。ゲームやアプリの開発、プログラミング系技術書や記事、マンガの執筆をおこなう。2001年オンラインソフト大賞に入賞した『めもりーくりーなー』は、累計500万ダウンロード以上。2016年、第23回松本清張賞応募作『バックドア』が最終候補となり、改題した『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』にて文藝春秋から小説家デビュー。近著は新潮社『レトロゲームファクトリー』。2019年12月に Nintendo Switch で、個人で開発した『Little Bit War(リトルビットウォー)』を出した。2021年2月には、SBクリエイティブから『JavaScript[完全]入門』、4月にはエムディエヌコーポレーションから『プロフェッショナルWebプログラミング JavaScript』が出版された。
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