種苗法改正、必要なのは拙速な成立ではなく、生産者側の不安や批判を無視せず真摯な説明と議論

種苗法改定で大打撃を受ける農家の声

秋田の農村から出てきた「叩き上げ」の「苦労人」であることをアピールする菅首相

秋田の農村から出てきた「叩き上げ」の「苦労人」であることをアピールする菅首相

 秋田の農村から上京した「叩き上げ」「庶民派」「苦労人」のイメージを押し出す菅義偉首相が、現在開会中の臨時国会で、農家を窮地に立たせかねない種苗法改定を成立させようとしている。実家がイチゴ農家である菅首相だが、そのイチゴ農家を含む農家全体に壊滅的打撃を与え、農薬と肥料と種をセットで販売するグローバル企業の利益拡大につながりかねないいう見方もある法改正に邁進している。  現在上映中のドキュメンタリー映画『タネは誰のもの』(原村政樹監督)は、北は北海道から南は種子島まで飛び歩きながら、危機感を強める農家の生の声を紹介していく映画だ。  作品中には「種苗法改定でサトウキビ農家がつぶれてしまい、(中国の脅威が増す)南の島に人が住まなくなる」と、「安全保障上も問題だ」と警告する種子島のサトウキビ農家が登場する。 イチゴ畑イメージ 続いて登場するのが、若手イチゴ農家の夫妻だ。  イチゴ農園で「勢いがあって形がいいイチゴを“子供”として残し、来年の“親”にする。これを何年か繰り返すことでいいものでそろうようになる」と夫が説明。しかし、この自家採取(増殖)が種苗法改定で禁止されると、毎年苗を購入する必要があり莫大なコスト高になる。  そのため、「これ(苗購入)でやっていけますか」との質問に対して、夫は「できません」と即答。妻も「(苗購入費は)売り上げに近い。働いている意味がなくなってしまいます」と相槌を打ち、「自家増殖で作らせていただきたいと思う」と訴えた。  女優の柴咲コウさんが「このままでは日本の農家さんが窮地に立たされてしまいます」(4月30日のTwitter。現在は削除)と警告を発したのは、こうした現場の生の声を代弁したものであったのだ。通常国会では慎重論が広まって継続審議になった種苗法改定だが、臨時国会でスピード成立させる日程が想定されている。

EUのような例外規定はなく、日本の改定案は一律禁止!?

 菅首相が初めて所信表明演説を行った臨時国会初日(10月26日)、永田町で審議入り前の緊急集会が開かれた。野党国会議員が次々と反対を表明した後、11月上旬から農林水産委員会で審議が始まり、月末までに通ってしまう恐れがあると報告された。安倍政権が廃止した種子法の審議時間はわずか6時間だったが、同じように菅政権もスピード改定を目論んでいるようなのだ。  今回の種苗法改定は、先進国では考えられない内容になっていることも浮彫りになった。EUでは、登録品種の自家増殖は一律禁止ではなくて例外があり、主要農産物のコメ・麦・大豆は自家増殖が可能というのだ。アメリカでも、主食である小麦は農家が自家採種している。それなのに、日本の種苗法改定では登録品種の自家増殖は一律禁止だ。 リンゴ畑イメージ そして農業生産法人には3億円の罰金が科され、共謀罪の対象にもなる。主要農産物はEUやアメリカのように例外とし、各地域の特産品、岡山のブドウや長野県のリンゴなどは地方自治体が条例で定めて例外することが不可欠なのだ。  紙智子参院議員(共産党)は集会の挨拶でこう批判した。 「(法改正の必要性は)『海外への流出防止』ということだが、『流出防止のためには海外で登録するのが唯一の対策』と農水省自身が言っていた。それを怠ったために海外流出が起きた」  農水省の職務怠慢を棚に上げて、自家増殖禁止の法改定をするのは支離滅裂だと紙議員は指摘する。
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地域の在来種は本当に守られるのか?
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仮面 虚飾の女帝・小池百合子

都民のためでも、国民のためでもない、すべては「自分ファースト」だ

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