コロナの「こわさ」を乗り越えて生命維持をしていくために、アートは必要不可欠

「融合する」「つながる」心の働きを重視する東洋的思考

融合するイメージ 近代の西洋においては、モノやヒトを「区別する」感覚が大切にされました。「区別」に努力が払われ、その感覚を洗練していくことが重要と考えられてきました。例えば「自と他」「心と体」「人間とその他の生きもの」など、あらゆるものが二分法で「区別」されていきます。  その結果、あらゆるものの輪郭が明確に区別されていくことで、それらを元に自然科学の体系が生まれてきました。これに対して、東洋的思考は西洋とは逆の方向へと発展していきました。日常で区別されているものをむしろ区別せずに「全体として」見ることを大切にしてきたのです。  つまり「融合する」「つながる」心の働きを重視しているとも言えます。「自と他」「生命と非生命」など、存在するものを区別しない方向へと心の動きを推し進めていくことで、すべての事象を「存在」としか言いようのない、名前もつけることができない場所で考えていく共通の基盤を大切にしてきました。  名前をつけることができないため、その有様は「無」や「空」、「混沌」や「道(タオ)」などと仮に呼ばれてきました。ここで誤解してほしくないことは、西洋と東洋との優劣を主張したいのではなく、そうした逆方向に成長した巨大な独立峰が同時に存在していることこそが重要だ、ということです。 心のはたらきイメージ わたしたちの心は、「区別」し「分離」する働きも持っていますが、同時に「融合」し、「つながる」働きも持っています。どちらの心の働きを重視して突き詰めていったかで、西洋と東洋とは異なる文化を作ってきたと言えるのではないでしょうか。  個と個はバラバラに独立に存在していて、契約によって関係性を結ぶ、という考え方もあります。一方、すべては「存在」の「混沌」から生まれてきたひとつながりのものであり、それぞれの関係性は本来分けることはできないものだ、という考え方もあります。

「いのち」というフィロソフィー(哲学)を共有するために、文化や芸術は何ができるか

生命維持イメージ 筆者記事「大林宣彦監督が、人生をかけてこの世界に伝えようとしていたものとは」の中で紹介しましたが、ドイツ政府はコロナ禍の中で「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要なのだ」と呼びかけ、アーティストの支援をはじめました。  自分も「アーティスト(アート)は必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要なのだ」と思っています。ただ、必要不可欠で生命維持に必要なのは、アーティストだけでもなく、医療者だけでもなく、関係性を持って存在しているわたしたちの全体性の基盤なのだろうということです。底を支える全体性の基盤がしっかりと機能してはじめて、医療もアートも存在できるし、役割を果たせる、ということが大事なのではないでしょうか。  コロナ禍の中で社会基盤が揺らいでいる今、わたしたちが行う必要があることは「いのち」というフィロソフィー(哲学)を共有することだと思います。そのときに文化や芸術は、その場に対して何を贈与できるのか、ということが問われています。
次のページ 
「こわさ」を乗り越えられる環境
1
2
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会