安倍政権同様、親学・EM菌にも近しい菅政権閣僚たち

保守系教育論団体「親学」

 経済再生担当相・西村康稔国際博覧会担当相・井上信治は「親学推進議員連盟」メンバーで、自民党政調会長・下村博文は設立時の事務局長だ。  親学は、日本会議の主要メンバーである教育学者・高橋史朗が提唱する子育て論。日本人の精神的伝統を重視した教育再生論で、復古的傾向が強い。同時に、発達障害は親のしつけが悪いことが原因であり伝統的な子育てによって予防できるとする主張が、科学的根拠がない誤解や偏見であるとして批判されている。  民主党政権時代の2012年、一般社団法人「日本発達障害ネットワーク」が親学推進議連の安倍晋三会長宛に、親学の問題を指摘する文書を送付。2014年成立の第二次安倍改造内閣でも、閣僚に4名の議連メンバーがいるとして問題視され新聞でも取り沙汰された。(2014年9月6日付東京新聞)

日本学術会議が批判表明を出した「統合医療問題」

 自民党統合医療推進議員連盟所属の閣僚は2人、閣僚以外の役職者は3人いる。 五輪担当相・橋本聖子:代表代行 国際博覧会担当相・井上信治 内閣官房副長官・坂井学 文部科学副大臣・田野瀬太道 国土交通副大臣・大西英男:事務局次長  統合医療とは、民間療法と一般的な医療との統合を謳い文句に、事実上民間療法を医療分野へと格上げさせようとする運動。これを推進している業界団体が日本統合医療学会で、その「調査研究」の対象には、科学的根拠がすでに否定されている「ホメオパシー」も含まれている。  ホメオパシーとは大まかに言えば、単なる砂糖玉(病状を引き起こす成分を希釈震盪したものを配合している、と謳われている)を飲むことで病気が治せると信じている民間療法だ。症状の原因となる物質の分子が計算上は1つも入っていないほどにまで希釈するため、単なる砂糖玉にすぎない。それ自体に害はないが、推進団体や信奉者の中には通常の医療で使われる薬やワクチンを否定し医療を忌避するケースがあり、死者も出している。  2010年には朝日新聞がこの問題を大々的に報じた。これを受け、現在、菅政権による会員候補の任命拒否問題で揺れる日本学術会議が、医療現場からのホメオパシー排除を訴える声明を発表。日本医師会をはじめとする科学・医療関係の団体がこぞって学術会議に賛同する声明を発する騒ぎも起こった。日本学術会議が国民の健康に直結する問題に積極的な役割を果たしたケースだ。  しかし日本統合医療学会は、これをホメオパシー関連の「“或る団体”の不正事件」として片付け、現在もホメオパシーを「調査研究」の対象としている。自民党統合医療議連は、厚労省などの担当者まで出席させて、日本統合医療学会名誉理事長の講演会を開催するなどしてきた。  なお、統合医療の推進は民主党政権時代にも試みられており、当時の長妻昭厚労相が省内に「統合医療プロジェクトチーム」を設置させている。統合医療は特に自公政権に限って親和性があるものではなく、その時々の政権に浸透している。

EM菌信奉者も入閣、あの集団感染教団との関わりも

 EM(有用微生物群)は、通称「EM菌」とも呼ばれる。EM菌という名の菌が存在するわけではなく、酵母や乳酸菌を中心とすると称する複数の菌の混合体だ。  もともと農業用の土壌改良資材として売り出されたが、後に放射能を消せるだの、EM商品を使っていると交通事故にあっても大事に至らないだの、いじめがなくなるだの、謎の効能が追加され、ほとんど寺や神社のお守りのような万能菌としてアピールされるようになった。EM菌を染み込ませ発酵させた菌糸まみれの泥団子を海や河川に投げ込むことで水質を改善できるなどとして、地域イベントとして「EM団子投げ」が行われるケースもあるが、いくつかの自治体では効果を疑問視して中止するケースも出ている。しかしいまだにプールの掃除に際して子どもたちにEM菌を投入させる行事を行う学校まである。  これに関わる閣僚は2人。内閣の役職者や党4役を合わせると5人いる。15年も前にEM活用を衆院に請願したことがあるだけの梶山経産相を含めるのは少々酷かもしてないが、それ以外はなかなかコアな「お付き合い」があるようだ。 経産相・梶山弘志:2005年、衆院にEM活用を請願。 デジタル改革担当相・平井卓也:EM菌議員連盟幹事長。2005年、衆院にEM活用を請願。 文部科学副大臣・高橋ひなこ:EM推進NPO法人「地球環境共生ネットワーク」理事。EM推進議連事務局責任担当。2012年、救世神教機関誌でEM菌アピールの寄稿。 自民党政調会長・下村博文:2011年にEM菌推進団体から表彰され、ブログでEM菌推奨 自民党選対委員長・山口泰明:2005年、衆院にEM活用を請願。
救世神教の機関誌『光明世界』(2012年4月号)より

救世神教の機関誌『光明世界』(2012年4月号)より

 文部科学副大臣・高橋ひなこに至っては、EM関連団体と単にお付き合いがあるどころか、自身がEM推進NPO法人の理事を務める完全なビリーバー。世界救世教の分派「救世神教」の機関誌『光明世界』(2012年4月号)に寄せた記事では、こう書いている。 〈岩手県には、岩手コンポストという平成11年頃から下水道汚泥をEMで処理している会社があります。放射能が700ベクレルほどある汚水や汚泥などを入れても、「放射能は検出されない」というほどにきちんとEMで処理され、EM堆肥になって出て来るようなシステムが導入されています。〉 〈皆様と一緒に連携をしながら、EMでボランティアを続けられればと思っております。お力添えをお願い致します。〉  自身が、東日本震災被災地でEM菌を用いたボランティアの実践者だ。  この機関誌を発行する救世神教は、2018年末に若手信者の集会で麻疹の集団感染が発生し翌2019年初めに発覚。教団外への2次感染、3次感染も発生し、感染した信者が大阪でAKB48の握手会に参加したこともあって、全国的なニュースになった。  世界救世教の教祖・岡田茂吉の教えに基づいて手かざし(浄霊)によって病気や怪我を治すことができるとして、通常の医療を否定する教義を持つ。ワクチン接種も否定していたことが、麻疹の集団感染につながったと見られる。  EM菌は、世界救世教いづのめ教団が「自然農法」として推奨し、普及に一役買ってきた歴史がある。その分派である救世神教も同様で、三重県内にある本部の売店にはEM菌グッズが多数並んでいる。EM菌の信奉者・実践者であり、その宣伝のためにこうした宗教団体とまでお付き合いを持っている人間が、よりによって文部科学副大臣というわけだ。
救世神教本部(三重県)の売店に並ぶEM菌関連商品

救世神教本部(三重県)の売店に並ぶEM菌関連商品

 デジタル改革担当相・平井卓也については大臣就任直後に、手首につけているブレスレットがEM菌を使用して作られた「EMセラミック」の製品に酷似しているとして、ネット上でちょっとした騒ぎにもなった。〈参照:東洋経済オンライン|注目閣僚に聞く①/デジタル改革担当相 平井卓也 デジタル庁は規制改革の象徴、成長戦略の柱だ〉  このブレスレットが実際にEMグッズであるかどうかは不明だが、いずれにせよ上記のように平井デジタル改革担当相はEM菌推進の立場にある閣僚だ。 ※敬称略 <取材・文/藤倉善郎 取材協力:鈴木エイト>
ふじくらよしろう●やや日刊カルト新聞総裁兼刑事被告人 Twitter ID:@daily_cult4。1974年、東京生まれ。北海道大学文学部中退。在学中から「北海道大学新聞会」で自己啓発セミナーを取材し、中退後、東京でフリーライターとしてカルト問題のほか、チベット問題やチェルノブイリ・福島第一両原発事故の現場を取材。ライター活動と並行して2009年からニュースサイト「やや日刊カルト新聞」(記者9名)を開設し、主筆として活動。著書に『「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島社新書)
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