フロリダのヒスパニック系が共和党支持である背景には、彼らの多くがキューバからの移民だという理由がある。
オバマ政権時のキューバとの国交正常化にバイデンも副大統領として協力し、キューバでの米国大使館の開設に彼は出席した。
キューバとの取引の進展を望んでいるキューバ出身の事業家はキューバとの取引再開を期待してバイデンを支持したが、フロリダの多くのキューバ移民はカストロ政権の打倒を望んでいる。だから、バイデンが大統領になるとオバマの対キューバ外交を踏襲するものと考えて、キューバ封鎖を実行しているトランプに親近感をもったようだ。
一方、テキサスの場合はもともと共和党の地盤の強い州だ。バイデンはクリントンがもっているほどの人気は、テキサスのヒスパニックの間ではない。
メキシコとの国境に壁を設けることに積極的活動をしているトランプだが、テキサスで着実に増加しているベネズエラからの移民を前にトランプのマドゥロ政権を崩壊させようとしている姿勢により好感をもったのかもしれない。テキサスで今回初めて投票することになったヒスパニックは50万人。それもバイデンを支持する票に十分にわたらなかったということだ。
10年計画で基盤作りされたアリゾナのヒスパニック系
ところが、今回の選挙でヒスパニックがこれまで長年共和党の地盤であったのを民主党に覆したのがアリゾナである。
実は、その背景には、アリゾナでは10年以上も前からメキシコや中米からの移民者の2世の有権者を民主党の支持者に育てるプランが実施されていたという背景がある。彼ら2世は米国生まれであるが、ヒスパニックということで社会から差別を受けている。特に、トランプ大統領はその差別の先頭に立っている人物だ。
カリフォルニアで誕生して米国西部で活発な活動を展開している「
Mi Familia Vota(私の家族は投票する)」という組織がある。アリゾナ支部を首府のフェニックス市において活動している同組織部長のエドゥアルド・サエンスは「アリゾナのヒスパニックが記録を破るほどに大勢が投票していなかったならば、この州は変化していなかったであろう。それが今回カギとなったということを確信している」と述べている。
「アリゾナで移民を排斥しようとする反移民法SB1070が2010年に成立して以来、ヒスパニックの団結はより強まった」という。2018年には上院議員に民主党から女性が選ばれ、今回も民主党から立候補した元宇宙飛行士マーク・ケリーが選出された。
そしてバイデン候補もアリゾナで勝利を確実なものにしつつある(本稿執筆時点ではまだ接戦ではあるが)。10年以上かけて移民2世を中心に民主党の基盤作りが実を結んだと言えるだろう。
<文/白石和幸>