「決裁前に任命拒否を知っていた」菅総理の衝撃答弁を信号無視話法分析

6名の任命拒否を菅総理は誰から説明された?

 続いて、辻元議員は6名の任命拒否を誰から説明されたのかという核心に迫っていく。その質疑は以下の通り。 1104質疑2 辻元清美議員(5問目):「それでは、その6名の方が外されたという説明は誰から受けましたか?」 菅義偉総理:「まず私は8月31日・・、8月31日に学術会議から総理大臣宛て105名の推薦名簿が提示され、担当の内閣府からその内容の報告を受けて、私、官房長官時代から持っていた懸念を実は伝えました。そうした、こうした懸念や任命の考え方を官房長官や副長官を通じて内閣府に伝えて、最終的には9月24日に内閣が99名を任命する旨の決裁を起案して、28日に私が最終的な決定を行った。24日に、いー、この99名が任命があがってくる前に聞いてます。」(黄信号辻元清美議員(6問目)「(6名が外されたという説明を)誰から聞きましたか?」 *総理の記憶を尋ねているのに官僚がペーパーを差し出したため、辻元議員が抗議する 菅義偉総理:「えー、たぶん杉田副長官だと思います。これ、あの、いろんな方が来てましたので。内閣府からも来てましたから。」(青信号辻元清美議員(7問目):「そうしますと、その時初めてですね、総理は6名が、えー、任命されてなかったということを知ったと。で、杉田官房副長官から聞いたと。じゃあ6名任命しないと決めたのは、誰ですか?」 菅義偉総理:「それは最終決裁者の私です。」(青信号) 辻元清美議員(8問目):「ということは、杉田官房副長官が『この6名は任命しない方がいいですよ』と持って来て、そこで話し合ってですね、『じゃあ、この人はこうだね。この人はこうだね。だから、この6名を外して、99名にしとこ』って、相談したんですか?」 菅義偉総理:「さき、先ほど申し上げましたけど、私、8月31日に105名の推薦名簿が提示された時に、官房長官時代からの私の懸念を内閣府にに伝えた。その中で最終的に、あのー、あがってくる段階で、えー、聞いたのは、あー、杉田副長官です。」(黄信号辻元清美議員:「じゃあ、杉田副長官が6名を提示したということじゃないですか。ということは、杉田副長官がこの6名を外したほうがいいという判断をされて提示してるわけですか? 杉田官房副長官、どういう理由で外そうとしたのか。ここに来て頂いて、ご説明頂く必要があるので、私たちは参考人として来て下さいと言っているわけです。委員長、今度こそ呼んでくださいよ、杉田さんを。いかがですか、委員長。」 金田勝年委員長:「理事会で協議をさせて頂きます。」

メディアが容認してきた異常な答弁

 ここまでの4問のやり取りについて、内容を確認していきたい。  まず、5問目と8問目に対して菅総理は周知の事実(99名任命の決裁までのプロセス)を述べているだけで黄信号とした。注目したいのは6問目の青信号の回答。決裁前、6名の任命拒否を菅総理に説明したのは、杉田和博 内閣官房副長官であることをあっさり認めたのだ。  この計8問の質疑において、重要な回答となった3問目と6問目には一つの共通点がある。それは直前の質問である2問目と5問目でも辻元議員はほとんど同じ質問をしており、その際は菅総理は黄信号に当たる周知の事実(99名任命の決裁までのプロセス)を述べて、回答を避けていることだ。  辻元議員の2問目と3問目の質問、および5問目と6問目の質問は言い回しに多少の違いはあるものの、同じ内容を繰り返し聞いただけだ。何か特別な工夫をして質問したわけではない。つまり、核心に迫る質問を聞かれた際、菅総理はいったんは周知の事実を述べて、的外れな回答ではぐらかしたにもかかわらず、繰り返し追及されるとあっさりと重要な内容をポロリと漏らしてしまっている。  これは菅総理が史上最長である7年8ヶ月にわたって官房長官を務めたことと無関係ではないように思う。官房長官時代、菅総理は事前に用意された原稿を読むだけで定例記者会見をこなすことが多かった。そうなると当然ながら、想定外の質問がきた場合は質問と回答が食い違う。そうした的外れな回答が返ってきても、会見に参加する大手メディアの記者クラブ所属の記者たちは菅総理を追及することなく、容認してきた。  一例として、約2年前の官房長官会見にて、質問した全5記者の全ての質問と回答を分析した筆者のYoutube動画「【信号無視話法分析】菅義偉官房長官 vs 5人の記者 2019年2月8日午前 記者会見」を紹介しておく。  この会見で質問にほとんど回答してもらえなかった(=赤信号と黄信号が過半数を超えていた)記者は、5人中3人(日本テレビ ワタナベ記者、毎日新聞 タカハシ記者、フジテレビ チダ記者)もいた。そのような的外れな回答を誰も追及せず、ただタイピング音が響き渡る異様な雰囲気が映像でも確認できる。  こうした閉鎖的な環境が、用意された原稿を読むだけの的外れな答弁を繰り返す一方で、何度も追及されると簡単にボロを出してしまう菅総理を形成したのではないだろうか。 <文・図版・動画作成/犬飼淳>
TwitterID/@jun21101016 いぬかいじゅん●サラリーマンとして勤務する傍ら、自身のnoteで政治に関するさまざまな論考を発表。党首討論での安倍首相の答弁を色付きでわかりやすく分析した「信号無視話法」などがSNSで話題に。noteのサークルでは読者からのフィードバックや分析のリクエストを受け付け、読者との交流を図っている。また、日英仏3ヶ国語のYouTubeチャンネル(日本語版/ 英語版/ 仏語版)で国会答弁の視覚化を全世界に発信している。
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