ーーその後、なんとか今の会社に就職。10月から毎月3万7000円を20年払う日々が始まりますが、正直どうですか?
小鷹:とても大きな金額だと感じます。毎月数万円とは言え、20年続くと考えるといい車を買ったようなものですからね。でも、奨学金を借りなければ進学もできなかったし、しょうがないなと思います。乗ることができないベンツでも買ったと思って生きていくしかない。
ーー今となっては「もう少し借りる金額を少なくしておけば」とは思いませんか?
小鷹:それは思いますよ、やっぱり。私が満額を借りることにしたのは「できるだけ多めに借りておこう」と思ったことが理由なんですが、今思えば間違いだったんじゃないかって。実際18万4000円もなくてもバイトすれば生活できるじゃないですか。
ーーそうかもしれません。
小鷹:でも、高校時代にはそれがイメージできなかった。
それに、普通は、社会経験のない22歳の若者が、何百万円も借金することってできないと思うんですよ。でも、奨学金ってそういうことじゃないですか。貸しちゃう側への不満じゃないですけど、「そんな簡単に高額の借金を背負わせちゃうのってどうなんだろう」って。
返済生活をリアルに想像できる高校生なんていませんよね? もちろん、お金を借りないと学校に通えなかったので感謝はしてるんですけど……複雑ですよね。
ーー貸す側にも問題があるのではないかとのことですが、親御さんにもう少し出してもらうことはできなかったんでしょうか?
小鷹:んーどうだろう……今思うと、金銭的な余裕が全くないという感じではなかったと思うんですよ。でも、お金のことに関しては「私からはあまり言いたくないな」って気持ちがあって。というのも家族がお金のことで喧嘩しているのをよく見ていたんですね。当時は「なんで私が割を食わないといけないんだ」って思ってて、だからこそ家族に頼りたくない気持ちが強かった。そういうのに向き合うストレスが、まだ高校生だった私にはとても大きかったんです。
ーーなるほど。
小鷹:受験生時代に一回だけ「塾に行かせてほしい」って言ったこともあったんです。その時、かなり勇気を出して言ったのにアッサリと「
お金ないから無理」って言われて、そこで一度心が折れているのもあります。私みたいな人って結構いるんじゃないかと思いますね。
ーー返済生活が始まりますが、今の心境は?
小鷹:正直将来のことは考えていないです。就活時に貯金が尽きてしまった関係で、そもそもお金もないから考える余裕がないというのもあります。
でも、逆に引かれたら引かれたでなんとか対応できる気がするんですよね。支出も自然と減ると思うので。毎月4万弱なので、決して少ない金額ではないですが。いずれにせよ、とても不安なのは間違いないです。
「奨学金を借りて返す」という感覚が一般化している現在の日本ですが、海外では奨学金と言えば基本的に返済不要のものを指します。それに対して、返済が必要なものをローンと呼び、明確に区別されています。金利がつく第2種奨学金は、海外では実質的に学資ローンなのです。
海外に比べ、「教育は自分のためになるのだから、自分たちで費用も賄うべき」と考える人が多いとされる日本ですが、社会全体を底上げするのもまた教育でしょう。そこに税金を投入することは、本来おかしいことでもなんでもないはずです。
小鷹さんも大学時代、自ら調べて日本の奨学金事情の特有さを知ったとそう。社会人になった今、彼女はこう述べます。
小鷹:日本は教育に投資しようという気持ちがまったく感じられないですよね。そして、それが結果的に多様な生き方を妨げている気もします。返済するためにはいい会社に入る必要があるし、会社員を続けるのがいい。もし起業したいとか思っても、なかなかリスクを取れなくなると思うんです。私はもともとやりたかった仕事につけたのでそこは良かったんですけど、今後の日本を考えると、もっと若者にお金を遣ってあげてほしいと感じます。と同時に、借りようとしている高校生は本当によく考えてほしいです。
将来に大きな不安を抱えつつも、今のところは「なんとかなる」という心境の小鷹さん。はたしてどんな返済生活になるのか。半年後くらいにまたインタビューさせてもらう予定です。
<取材・文/岡本拓>