── 竹中氏は、デジタル化は中国が最も先行していると述べ、中国浙江省杭州市の「シティ・ブレイン(城市大脳)」の事例を挙げています。
佐々木: 神戸大学の梶谷懐教授が『現代ビジネス』で連載した「
日中で共鳴する新自由主義の行方」が参考になります。梶谷氏によれば、中国の改革派知識人、メディアには「小さな政府」を目指す竹中氏の新自由主義イデオロギーとその政治手腕に共鳴している人が少なくなく、竹中氏は「経済改革の皇帝」などと呼ばれているそうです。
一方、竹中氏も、「
中国の場合、共産党政府が強いので、その命令によって、時には法律も個人情報をも超越して(いろいろなアイディア)を試すことができます」などと著書(『
ポストコロナの「日本改造計画」 デジタル資本主義で強者となるビジョン』PHP研究所)で語っています。
習近平政権の経済改革では、政府が市場から退場するのではなく、民間資本と協力しながらグローバルな資本主義の下で成長を図る戦略がとられています。
強権と市場原理による構造改革という手法において、竹中氏と習近平政権が共振しているように見えるという梶谷氏の指摘は示唆に富みます。
梶谷論文は、日本のスーパーシティ構想の真の狙いは企業と政府の関係を根本から変えることにあるという重要な指摘もしているのですが、そんな大改革を推し進めようとする竹中氏の「本音」について、梶谷氏が次のように考察しています。
〈
「様々な古い慣行」の根っこにある、さまざまな中間団体の存在こそが、「心地よさ」をもたらしているのであり、それを徹底的に解体しなければ「改革」は実現しない、というのが竹中氏の本音だというのが自然な見方ではないだろうか。そして、そのような古い慣習や、中間団体を一掃しようとするためには、それを実現する「強い国家」の存在が要請されることになる〉(出典:
現代ビジネス連載「日中で共鳴する新自由主義の行方(3)」竹中平蔵氏と中国・習近平政権、提唱する「経済政策」がこんなに似てきている )
中国は共産党一党独裁などの理由から、そもそも中間団体を形成することが極めて難しい社会です。竹中氏から見れば、中間団体が政府の邪魔をすることがない中国は日本の先を走っているように映るのかもしれない。しかし、
日本の社会において中間団体を一掃するということは何を意味するのか? 今一度立ち止まって考えるべきではないでしょうか。
── 竹中氏は最近、ベーシックインカムを提唱しはじめました。狙いはなんでしょうか。
佐々木: 『
ポストコロナの「日本改造計画」』で竹中氏は、デジタル資本主義を加速させなければならないと繰り返し強調しています。一方で彼は、「デジタル資本主義のもとでは、
今とは桁違いの格差が生じざるを得ない」とはっきり言っています。「
今ある職業の半分ぐらいがなくなるリスクが生じます」とも述べています。
つまり、来るべき超格差社会を認めたうえで、その処方箋として毎月7万円を支給するベーシックインカム案を出してきたわけです。彼は、ベーシックインカムは「
年金や生活保護の廃止とバーターの話」と明確に述べています。主眼は格差是正より、福祉経済制度の解体あるいは新自由主義の貫徹にあるのでしょう。実際、竹中氏自身が自分のベーシックインカム論は新自由主義の教祖ミルトン・フリードマンの「負の所得税」の考えに基づくとも言っていますから。
── 竹中氏が進める新自由主義的な政策に対して、どのように抵抗していくべきですか。
佐々木: 竹中氏の主張はより明確になってきました。スーパーシティを核とする過激な規制改革によってデジタル資本主義を加速させ、国家と個人のあいだに存在しているさまざまな中間団体が一掃されていく過程で落ちこぼれてしまう人には、「月7万円」のベーシックインカムで対処する。そのかわり生活保護や年金などの福祉経済制度は廃止し、財政再建をはかっていく。
菅政権においても竹中氏は活躍するでしょう。彼が描く日本社会の未来像を実現すべく、「仕組みづくり」に余念が無いことでしょう。しかし、「経済改革の皇帝」たる竹中平蔵に付き従うかどうかはわれわれひとりひとりが決めることです。
竹中氏がコロナ後に目指すべき社会像を提示し、菅政権のブレインとして動き始めたわけだから、われわれも「イエス」「ノー」を明確にしなければなりません。
(聞き手・構成 坪内隆彦)
<提供元/
月刊日本11月号>