「仕事の前にコカインで目を覚ます」…欧州の依存症患者と話して感じたこと

別な薬物に乗り換えるケースも

 では、欧州ではそれらの問題に対して、どのような姿勢で受け入れているのか。実際に筆者が出会った人々の声を紹介してみたい。まずはとある作業現場で出会ったPさん(27歳・男性・フリーター)だ。 「何年か前にスピード覚せい剤)にハマっていたんです。初めはもちろん楽しいんですが、だんだん自制が効かなくなってきて、友達からも『顔色がよくないから、しっかりしろよ』と言われるまでに。家族には気づかれていなかったと思いますが、もうそれ以上耐えられないと感じて、自分から中毒になっていることを打ち明けました。  その後、依存症患者を対象にしたセラピーに通っていたのですが、家族に話せてよかったです。言い出すまでは苦しかったですけど、自分だけでは解決できなかったでしょうから。特に、妹は親身になって心配してくれて、彼女の存在が大きな助けになりました」  覚せい剤は使っていないものの、いまだに仕事中にも関わらず大麻を吸ったり、コカインを売り買いしたりしているというPさん。ひとつの薬物から抜け出せたと思っても、薬物そのものから抜け出すことは難しい。作業をしながら、家族への感謝を述べるPさんの表情は、少し苦しそうにも、少しホッとしたようにも見えた。

出勤前にコカインを吸引

 いっぽう、友人の紹介で知り合ったLさん(40歳・男性・不動産)の場合は、現在進行形で薬物依存症の渦中にいる。 「若い頃はいろいろ試しましたけれど、その後、結婚してしばらくは落ち着いていたんです。ところが、離婚して独身になってから、また薬物を使って遊ぶようになりました。もともとナンパ好きだったので、コカインは高揚感が得られて、会話が楽しくなるので相性がいいんです。  ただ、夜遊びに使っているうちに、今度は目覚めがよく頭も冴えるので、出勤前にも吸うようになりました。周りにはバレていないというか、今付き合っている彼女にも、特に何か聞かれたことはありません。コカインはやはりお金がかかるので、友達を誘って割り勘で買ったり、そんな大量に使っているわけではないんですが……」  仕事の前に使用し、周囲の人間を巻き込んでまで薬物を入手しようとする……。側から見れば完全に依存症だが、本人は「コントロールできている」と豪語する。
次のページ 
在宅ワークでより見えづらくなる依存症の実態
1
2
3
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会